【感想】伊坂幸太郎『モダンタイムス』-あるキーワードを検索すると不幸に襲われる・・・-
こんにちは。こなびすです。
久しぶりの更新です。
伊坂幸太郎さんの『モダンタイムス』についての感想を書きます。現実味が無い部分も多いですが、流石伊坂さんって感じです。
エンタメ小説として物凄く面白かったです。
読みやすく、先が気になる展開でページを捲る手が止まりませんでした。
((内容(「BOOK」データベースより))
恐妻家のシステムエンジニア・渡辺拓海が請け負った仕事は、ある出会い系サイトの仕様変更だった。けれどもそのプログラムには不明な点が多く、発注元すら分からない。そんな中、プロジェクトメンバーの上司や同僚のもとを次々に不幸が襲う。彼らは皆、ある複数のキーワードを同時に検索していたのだった。
感想
まず、時代設定ですが、今よりも数十年少し先の未来の話です。
とはいえ、わからないことがあるときにはまずネットで検索するというのは現代と変わっていないようです。
あるキーワードを検索すると、不幸に見舞われるって怖くないですか?
この設定、どんな内容かは気になりますよね。
そのキーワードを検索した人達は何故そのような不幸に襲われたのか、主人公は謎に立ち向かおうとします。
不幸と言っても軽いものではないです、心身や人生に大きな影響を及ぼす暴力的なレベルのものです。
この小説を読んでいて、社会のシステムや仕組みの怖さというか、個人ではどうにもならない、「そうなっている」からという個人の無力さみたいなものをしみじみと感じました。
過去の事件、登場人物、その人のルーツが複雑に絡み合って上手いこと構成されています。そして登場人物達の会話なども軽快でいい感じです。
あまり本編とは関係ないのですが、「人生は要約できない」という言葉がなんか印象的でした。人の人生って、要約しようとすると、入学、卒業、就職、結婚、出産みたいな人生のイベントで語られるのでしょうけど、実際はそうじゃないと。
そういう要約できない、日々の行動や会話こそが人生みたいな、そういう件がありました。
結構非現実的な内容ではあるので、自分にそういうことが起こるかと言われると甚だ疑問です、主人公やその周りの人のように特別だからこういうことに巻き込まれた感はあります。
が、面白いので興味がある方には是非読んでいただきたい作品です。
なお、伊坂さんの別作の「魔王」とも関連しています。個人的には「モダンタイムス」の方がだいぶ好みでした。
読んでいただき、有難うございました!
【感想】垣谷美雨「老後の資金がありません」-老後の経済的不安軽減のためのヒントになるかも-
垣谷美雨さんの「老後の資金がありません」を読了したので感想を書きます。
いつものことながらネタバレ無しです。
まず、私と同年代30代以降であれば多少は老後について考えを巡らせたことがあるかと思います。
その中でも不安が大きいのはやはり経済的なことではないでしょうか?
次から次へとお金がかかるイベントが発生することによって、経済的に徐々に困窮していく50代の女性が主人公です。
悲観的なタイトルではありますが、この小説はユーモラスで軽快で読みやすいです。
また、現実的に起こりそうなことがストーリーとして展開され、状況や心理の描写もリアルであるため、実際に困っている人のヒントにもなり得るかもしれません。
文章も上手い作家さんですし、気軽に読める小説としてもおすすめです!
内容(「BOOK」データベースより)
後藤篤子は悩んでいた。娘が派手婚を予定しており、なんと600万円もかかるというのだ。折も折、夫の父が亡くなり、葬式代と姑の生活費の負担が発生、さらには夫婦ともに職を失い、1200万円の老後資金はみるみる減ってゆく。家族の諸事情に振り回されつつもやりくりする篤子の奮闘は報われるのか?
感想
降りかかる金難。
老後資金は1,200万円あるものの、立て続けに起こる支出で短期間に一気に余裕がなくなります。
更に追い打ちとして、夫も職を失うという正に泣きっ面に蜂状態です。
正直、経済的にきつい状況は辛いですよね。
貧すれば鈍するとも言います。
経済的基盤が揺らぐと、精神的にも余裕が無くなって、上手くいくものも上手くいかなくなります。
そんな中で、主婦の篤子は奮闘するのです。
地味でお金も無い娘のためということと、相手の面子のためにも地味婚を選ぶことができず、泣く泣く結婚式の費用も負担したり、舅の葬式で棺や祭壇を選ぶ際の描写などもリアルでした。
棺や祭壇の値段もピンキリであることも知れました。実際そんな状況になったら迷うだろうなぁと。
そのように、舅の家柄が老舗だったこともあり、金銭的な不安があってもケチることもできないというような苦渋の選択を迫られるシーンも多く、挙句に新婚の娘夫婦の問題や、夫が職を失うなど、悲惨な状況に振り回されます。
それでも、自身と家族のために奮闘するのです。
勇気を貰えます。
今まさに経済的にきつくなってきたという方には是非読んでいただきたいです。
また、個人的には姑がいいキャラしていてかなり好きです。
登場した時は老人ホームで大人しい感じだったのですが、その後の展開で意外な一面を見せていきます。
老舗を切り盛りしていただけあります。
とだけ書いておきます。
ストーリーの展開も面白いですよ。ちょっと予想から外れる方向に進んだりします。
話の行方が更に気になる展開で飽きずに読み切りました。
名作です。
【感想】奥田英朗「サウスバウンド」-元過激派の父親はこんな感じ-
こんにちは。こなびすです。
今日は奥田英朗さんの小説「サウスバウンド」について、感想を書きます。
小説は上下巻に渡る長編です。
主人公は平凡な小学生の二郎。
そして、熊のように体格が良く、元過激派の主人公の父親、一郎。
一郎は小説家を名乗り家でゴロゴロしてるだけ。
そして、やたら我が強く、肉体的にも強く、家族を翻弄します。
最初はこんな父親嫌やなぁと思いましたが、読み進めるうちに印象が変わってきました。
内容(「BOOK」データベースより)
小学校六年生になった長男の僕の名前は二郎。父の名前は一郎。誰が聞いても「変わってる」と言う。父が会社員だったことはない。物心ついたときからたいてい家にいる。父親とはそういうものだと思っていたら、小学生になって級友ができ、ほかの家はそうではないらしいことを知った。父はどうやら国が嫌いらしい。むかし、過激派とかいうのをやっていて、税金なんか払わない、無理して学校に行く必要などないとかよく言っている。家族でどこかの南の島に移住する計画を立てているようなのだが…。型破りな父に翻弄される家族を、少年の視点から描いた、長編大傑作。
感想
かなり面白かったです!
主人公の父親の一郎は、過激派ってこんな感じなのかなというイメージがそのまま具現化されたような人物です。
しかも一郎はそこらへんの元過激派ではなく、伝説の過激派として名が知れ渡っています。
国家権力を毛嫌いしており、好きでこの国に生まれたわけでもないと言う。
豪快で力も異常に強く、弁も立つという個性的な人間です。
家では寝てばかりでゴロゴロしているだけで、読んでいるだけでもうざい感じでしたが、冒頭にも書いたように読み終わった後では印象がガラッと変わっていました。
沖縄出身で、物語の後半で沖縄のとある島に移住するのですが、そこからが本領発揮って感じです。
一郎の生命力がとにかく凄い、この人ならどこでも生きていけるんだろうなと思います。
また、島を守る闘いにも身を投じることになるのですが、やたらカッコいいのです。
自分に非が無ければ守るべきもののためにとにかく闘う。負ける戦だろうがそんなものは関係ないのです。
彼は息子の一郎に説きます。
世の中には最後まで抵抗することで徐々に変わっていくことがあると。
奴隷制度や公民権運動など今ある平等は心優しい権力者が与えたものではなく、人民が戦って勝ち得たものであると。
社会を変えるために戦うのだと。
熱いっす。
伝説の過激派。
あと、沖縄の人たちの伝統、困っている人がいれば助け合うという「ユイマール」が描写されているのですが、沖縄の人たちはこんなに温かいのかと思いました。
勿論人にもよるんでしょうけど、沖縄なら今もそんな人がたくさんいるんだろうなと想像したり。
とても人間らしく、いい伝統だなと。
温かい気持ちになりました。
最後に、主人公に全然触れてませんでしたが、主人公は優しい感じのいい子です(笑)
とにかく、父親がインパクト強過ぎました。
【感想】森見登美彦 『夜行』 -夜感強めの少し薄気味悪い不思議な物語-
こんにちは。こなびすです。
森見登美彦さんの小説『夜行』を読みました。
好き嫌いが分かれそうな気がします。
夜の暗さが際立っている、不思議な怖さがある小説です。
「ペンギンハイウェイ」等と同じ作者とは思えない、曖昧模糊とした、輪郭がはっきりしておらず掴みどころがないような物語です。
内容(「BOOK」データベースより)
十年前、同じ英会話スクールに通う僕たち六人の仲間は、連れだって鞍馬の火祭を見物にでかけ、その夜、長谷川さんは姿を消した。十年ぶりに皆で火祭に出かけることになったのは、誰ひとり彼女を忘れられなかったからだ。夜は、雨とともに更けてゆき、それぞれが旅先で出会った不思議な出来事を語り始める。尾道、奥飛騨、津軽、天竜峡。僕たちは、全員が道中で岸田道生という銅版画家の描いた「夜行」という連作絵画を目にしていた。その絵は、永遠に続く夜を思わせた―。果たして、長谷川さんに再会できるだろうか。怪談×青春×ファンタジー、かつてない物語。直木賞&本屋大賞ダブルノミネート作品。
感想
この作品の印象を一言で表すなら「夜」です。
大学時代の英会話スクールの仲間達がまた旅に出て、その場でそれぞれが過去の出来事を話し始めます。
10年前に消えた長谷川さんという女性。
そして、銅版画家の「夜行」という作品。
夜に関する表現が多めです。暗いです。
全体的に明るいということはありません。
サスペンスでもないのですが、背筋がそわそわするような、よくわからない気味悪さがある物語です。
長谷川さんがどうなったのか、仲間達はまた出会うことができるのか、なんか銅版画の「夜行」という作品がキーになってるっぽいけど、それがどう絡んでいるのか。
長谷川さんにも絡んでいるのか、等、様々な謎を抱えたまま物語が進みます。
詳しくは書きませんが、最終章はえっ?ってなって一気読みしました。
人物に対する外見の描写等は少ない気がしました。
そこは想像力で補う余地が多くて、これまた好き嫌いが分かれそうな気がします。
そういうことが原因なのか何なのかわかりませんが、登場人物の印象はそれほど際立っていないです。(あくまで個人的な意見です)
それが悪いというわけではないです。
もやもやした雰囲気のこの作品には、それが合っている気がします。
銅版画の「夜行」がどんなものなのか、もし実在していたら是非見てみたいなと思わされました。
もし実在していたら、妙に人を引き付ける何かをもった作品なんだろうなという気がします。
秋の夜長にゆっくり読んでみるのもいいかと思います。
【感想】桐野夏生『魂萌え!』-59歳の主婦が直面した現実に震える-
こんにちは。こなびすです。
10月に入り秋っぽくなりましたが、大阪はまだ暑いです。
クーラーは辛うじて我慢していますが、まだ扇風機使ってます。。
それはさておき、今日は桐野夏生さんの小説「魂萌え!」(上下巻)の感想です。
面白かったです。一気読みしました。
タイトルだけ見ると、何?萌え系の話?とか、どんな話なのか全く想像つかないと思います。
平凡な59歳の主婦が主人公なのですが、夫が急逝したことで様々な現実を突きつけられ、老いていく中、悩みながらも生きていかざるを得ないリアルな一人の人生が書かれています。
内容(「BOOK」データベースより)
夫が突然、逝ってしまった。残された妻、敏子は59歳。まだ老いてはいないと思う。だが、この先、身体も精神も衰えていく不安を、いったいどうしたらいい。しかも、真面目だった亡夫に愛人だなんて。成人した息子と娘は遺産相続で勝手を言って相談もできない。「平凡な主婦」が直面せざるを得なくなったリアルな現実。もう「妻」でも「母」でもない彼女に、未知なる第二の人生の幕が開く。第5回婦人公論文芸賞受賞。
感想
59歳の主婦である敏子が主人公です。
全く想定していない状況でいきなり夫が倒れ、そのまま亡くなり、その後、疑いもしなかった愛人の存在が判明するって、泣きっ面に蜂過ぎます。。。
不憫ですよね。
まず夫が亡くなった時、そして愛人の存在が判明した時の、心の動揺具合、将来に対する不安、子供や友人との関係性等、悩みどころが多くあり、その時々の心理描写がリアル過ぎるのです。
私と主人公は性別も年代も違いますが、この小説を読んでいるだけで、この59歳の女性の人生をなぞるかのように体験をしているような錯覚に陥りました。
それくらいリアルで丁寧に描写されています。
普段は考えもしないですが、世の中に同じような経験をした、もしくは今まさにその途中の女性もいるのだなと考えると、世知辛い世の中であると思わされます。
「これから先は喪失との戦いなのだ。友人、知人、体力、知力、金、尊厳。数えだしたらキリがないほど、自分はいろんなものを失うことだろう。老いて得るものがあるとしたら、それは何なのか、知りたいものだ」(本文より)
たった一人で老いと将来に向き合う。
悩み、悲しむ中で友人の支えがあったり、愛人という敵対する人がいたりする中で、それでも生きていかなくてはならず、少しずつ状況を理解し、進むしかないと決意する敏子の姿が印象深いです。
女性の方や、同世代の方はより共感できて楽しめるのではないかと思います。
60歳を目前にした人生の一例がこういうものであると考えさせられました。
同じような状況になった時に、何をどうするのか正解というのはまずわからないと思いますが、一人の女性の生き方が垣間見れたのは良かったです。
心から読んで良かった!と思える作品でした。
【感想】垣谷美雨「リセット」-人生やり直しできたら、誰でも想像したことがあるはず-
こんにちは。こなびすです。
垣谷美雨さんの小説「リセット」の感想です。
よくあるタイムスリップものの小説です。
時間を遡るとか、逆に未来に行くとか、時間がループするとか、そういう設定の小説が結構好きなので手に取って購入してみました。
人生に不満がある3人のアラフィフ女性が高校時代にタイムスリップしてしまいます。
彼女たちは高校の同級生です。
主な登場人物
香山知子:
子供が二人いる専業主婦。経済的には上の下くらいの家庭。高校生時代の同級生の夫は男尊女卑の気が強め。そのため、常に自分を抑え、周りに気を遣って生活している。高校生の時には女優になるという夢を持っていた。外見は綺麗。
黒川薫:
独身のキャリアOL(役職は副部長)。典型的な優等生タイプで頭が切れる。身長が高く、痩せ型。服装の趣味はあまりよくない。保守的な家庭で育ったため結婚していないことを親から非難されている。
赤坂晴美:コンビニとスーパー銭湯でバイトをしており、小さなワンルームに住んでいる。高校時代に妊娠したため中退し、結婚したものの、当時の夫からDVを受け離婚。以前は水商売をしていた。
背が低く化粧が濃い。高校時代は典型的なヤンキー。
上記の3人は48歳で、高校時代の同級生です。
3人の視点が切り替わりつつ物語が進んでいきます。
感想
一日でイッキ読みしました。
もし人生をやり直せたら。
そんなタラレバは誰しも一度は考えたことがあるはずです。
この物語の主人公3名は現状に不満があり、人生に思い悩んでいます。
女優になっていれば、結婚していれば、金持ちと結婚できていれば等。
とあるいきさつで、彼女たちは高校時代にタイムスリップしてしまいます。
48歳から18歳へ。30年昔に戻ることになります。
中身は48歳のままです。
タイムスリップした新しい人生では、彼女たちは元の世界とは違う人生を歩もうと決意して、その道に邁進します。
中身が48歳、十分な大人です。
そのくらいの年齢になると、人生経験から心の機微等もある程度はわかるため、高校生時代の恋愛の上滑りした青臭い感じに白けたり、大人が子供になったら感じそうなことがリアリティを持って書かれています。
子供時代、まだ人生経験が豊富ではないからこそ楽しめた、そういうことも確かにあるかもしれないと思わされました。
また、彼女達が高校に戻った時に、大人だからこそわかる親の偉大さに気づく描写があったりします。
一度でも料理の味を褒めたことがあっただろうか、毎日作ってもらえるお弁当に感謝の気持ちを述べたことがあっただろうか、と。
読んでいて耳?が痛かったです。。
やってもらって当然だと、私も子供の時は思っていました。というか、毎日家事や料理をすることがどれだけ大変なことか想像すらしていなかったです。。
(いや、私は違った!親の凄さに気づいていた!という人もいるかもしれませんね。その方は素晴らしいです。)
これを読んでいる若い人がいれば、親が家事や仕事を毎日する大変さについて、少しでも想像を巡らして、是非両親に感謝を述べてあげてください!
彼女たちは、タイムスリップした世界でも大人になり中年になり、時を過ごしていきます。
40歳になった時には、彼女達は元の世界で48歳だったので合計で88歳生きていることになるんですよ?
人生の超ベテランです。
そういうの、想像したら面白いですよね。
彼女達が、やり直した人生でどのような道を改めて歩むのか、元の世界に戻ることになるのか、はたまた、新たな人生にタイムスリップするのか等、どのような結末になるかは是非小説を読んでみてください。
自分がもし高校生に戻れたら、狂喜すると共に、時間を無駄にせず勉強するだろうなと思います。
そんな風に、もし20年後の自分を想像するとして、その時の自分が現在の年齢に戻れたら、狂喜すると共に無駄な時間を過ごさないようにするだろうなとも思いました。
何が言いたいかというと、未来を更に良くするために、今をしっかり生きようと思いました!
少しでもこの気持ちを持続させたいと思います。
そんな風に思わせてくれた小説でした。
【感想】山崎豊子「大地の子」-中国残留孤児という戦争の被害者-
こんにちは。こなびすです。
たまたまですが、終戦記念日も近いタイミングで読み終わったのもあり、戦争の悲惨さと被害者についてよくよく考えさせられました。
恥ずかしながら、中国残留孤児についても全く知らず、この小説を読んで初めてそのような戦争被害者もいるのだなと知りました。
7歳で中国に残された中国名「陸一心」の半生を描いた、全四巻の長編小説です。
内容(「BOOK」データベースより)
陸一心は敗戦直後に祖父と母を喪い、娘とは生き別れになった日本人戦争孤児である。日本人であるがゆえに、彼は文化大革命のリンチを受け、内蒙古の労働改造所に送られて、スパイの罪状で十五年の刑を宣告された。使役の日々の中で一心が思い起こすのは、養父・陸徳志の温情と、重病の自分を助けた看護婦・江月梅のことだった。
感想
長編すぎて何を書くか迷っています。
まず、日本が中国に侵略戦争を仕掛けて、満州を実質統治していたのは歴史で習った通りです。
その時に、日本から中国の開拓団として、何万人も中国に送られています。
中国に町や村から人を送り出すと、政府からその町村に補助金が出るため、村から何世帯とかそんな感じで中国に送られていたようです。
例によって、体のいい言葉を並べられて、開拓民も希望を抱きながら中国に送られるわけですね。で、待ってるのは凄惨な現実というわけです。
主人公の松本勝男(7歳)は、家族と共に満州に渡り、そこで、ソ連軍の虐殺に遭遇することから過酷な人生を歩むことになります。
目を覆うような地獄のような状況です。
家族を喪い、または生き別れ、言葉もわからない中国で一人残されるわけです。
7歳ですよ?
そして、敵国であった中国で、戦時直後の日本人の扱いはどんなものか想像できますか?
人に攫われ、売られ、買われた先は・・・。いい生活が待ってると思いますか?
ないですよね。。。
目も当てられません。
日々を生き延びるだけで精一杯で成長はするものの、「日本人の血が流れている」という一点で、彼を常に苦しめます。
周囲のいじめなんて生ぬるいものではないです。
成人してからも、文化大革命の波に翻弄されて、そこでもまた日本人であることのみで、逮捕され、奴隷同然の生活を余儀なくされます。
苦難の連続、どころではないです。苛烈過ぎる人生。
正直、彼の人生は辛過ぎて、私が彼なら自死を選んでいるんじゃないかと思います。
彼に陸一心と名付けてくれた慈悲深い義両親や、唯一とも言える親友、重要な局面で彼を救うことになる女性等、そんな中、数少ない味方とも言える人素晴らしい少数の人達が彼に手を差し伸べつつ、希望を持って生き抜くわけです。
彼の生き抜く姿に胸を打たれ、泣ける場面もあります。
前半を踏まえた上で、後半は、中国共産党等の政府も絡んだ国家プロジェクトの話になったり、テーマが壮大過ぎて、もう何から何まで重厚です。
今現在でも日本にいい感情を持っていない中国人の方も多いですが、中国人の日本人に対する思想の根底みたいなものも少し理解できた気もします。
何より、実際に中国で陸一心と同じように中国に取り残された人が存在することは本当に悲しいですし、結果的にその人達を見捨てた日本政府に対しては怒りしかありません。
戦争はダメです。戦時中に人の命を奪うのみならず、その後にも多くの被害者を残します。いいことは何一つありません。
戦争の悲劇を忘れずに、残留孤児について知る意味でも多くの人に読んでいただきたい作品です。