【感想】西加奈子『さくら』-家族とは、命とは…-
こんにちは。こなびすです。
今日は西加奈子さんの小説「さくら」の感想を書きます。
「さくら」の主人公は、仲の良い家族に囲まれ、幸せだった子供時代を経て年を重ねます。でも、兄が亡くなることによって家族の状況が一変します。
家族とは、命とは、生きることとは、それらについて考えさせられる小説です。
読み終わった後に浮かんだ言葉は「禍福は糾える縄の如し」でした。
内容(「BOOK」データベースより)
ヒーローだった兄ちゃんは、二十歳四か月で死んだ。超美形の妹・美貴は、内に篭もった。母は肥満化し、酒に溺れた。僕も実家を離れ、東京の大学に入った。あとは、見つけてきたときに尻尾にピンク色の花びらをつけていたことから「サクラ」と名付けられた十二歳の老犬が一匹だけ。そんな一家の灯火が消えてしまいそうな、ある年の暮れのこと。僕は、実家に帰った。「年末、家に帰ります。おとうさん」。僕の手には、スーパーのチラシの裏に薄い鉛筆文字で書かれた家出した父からの手紙が握られていた―。二十六万部突破のロングセラー、待望の文庫化。
登場人物
薫:主人公。特に際立つ個性はないけど優しい男性。
はじめ:薫の兄。美形で勉強も運動も出来る。全てにおいて優秀で誰からも一目置かれるヒーロー。喧嘩も強い。モテ具合が伝説となっている。
美貴:はじめと薫の妹。超がつくほどの美形。がさつ。兄のことが大好き。兄と同様に伝説を作ったりもします。モテに加えて乱暴者であることによって。。
サクラ:薫の家族に飼われている老犬。家族皆から溺愛されている。
感想
兄と妹が際立っているため、常に彼らと比べられて平凡に思える主人公。
でも、兄や妹を妬んだり羨んだりすることもなく、自分のポジションを確立していて偉いと思いました。ただ優しいだけでもなく、人間臭い思考もしているし、好感が持てると思います。
そしてまず、読み始めた人は、なぜ兄が死ぬことになり、なぜ家族が崩壊しそうな状況になっているのかということが気になるのではないかと思います。
はじめの章では、主人公は大学生ですが、次の章から主人公が子供の頃の話となります。
大半は温かい家族の話です。
時系列的に話が進み、一家の人生を一通り見ているような錯覚を起こします。
主人公が恋愛をして文通をしたり、兄が彼女を連れて来たり、美貴が学校の不良から呼び出しを食らったり、母親と父親も絡めて、そんなような細かなエピソードが散りばめられています。
恐らく、この小説を紹介するような人は、感動するようなエピソードを書いていることが多いと思うので、あえて別の意味で印象的だったことを書きます。
それは、「勇気あり」と名付けられた子供達の間で流行っていた遊びです。
兄が友人達としていた遊びなのですが、それに幼い美貴も参加すると言い出すのです。
どんな遊びかと言うと、犬のうんこを囲み、それに爆竹を刺して、誰が最も長くその場に留まっていられるかっていうチキンレースです。
自分が子供の頃に誰かがこんなことを思いついてたら、まずやってたやろうなって思います(笑)
そんなあほらしいエピソードがあるのもこの小説のいいところだと断言できます。
いい話もあれば、悲しい話もあり、そういう様々な出来事が積み重なって過去が形作られ、彼らの人生が作られているのが実感できます。
主人公や兄の恋愛の話なんかも、なかなか甘酸っぱくて良かったです。
そんな中で、兄が亡くなることによって家族は衝撃を受けます。
読者も同様でしょう。
ヒーローだった兄が。不憫で辛く、心理的なダメージがでかいです。
現実でも自分にそういうことが起こらないとも限らない、人生の不条理さを突きつけられました。
タイミング一つ、きっかけ一つで、亡くなった本人然り、周りにいる人達の人生も大きく変わってしまいます。
家族や愛すべき人に囲まれて過ごせる素晴らしさと、人生の辛い部分、いずれも描写されていて考えさせられました。そして、どんな状況になっても、希望はあると感じさせてくれます。
平凡ながら生活できている今を大切にしたいなと心から思えました。
最後に、彼らと共に生活していたこの物語になくてはならない存在の「サクラ」という犬についてです。
話の中で色々な出来事が起こりますが常に家族に愛され寄り添っています。犬を飼いたいなと思いました。
サクラは読者にも寄り添ってくれることをお伝えしておきます。
いい小説です。
【感想】恩田陸『黒と茶の幻想』-知的な会話が最高。予定調和的な会話にうんざりしている方へ。-
こんにちは。こなびすです。
この小説、「大人版の夜のピクニック」なんて呼ばれることもあるみたいです。
なるほどと思いました。
夜のピクニックは高校生の男女が主人公ですが、この作品はアラフォーの男女が主人公です。場面のほとんどが歩いているだけというのも共通しています。
旅のテーマの1つとして各人が謎を持ち寄る、みたいなのがあって、その謎を探求しつつ回想したり、ほぼ会話だけで話が進みます。
大きな事件が起きることも無いですが、それだけで惹き込まれる魅力的な小説です。
同著者の「夜のピクニック」が好きな人はこの小説も好きだと思います。
内容(「BOOK」データベースより)
太古の森をいだく島へ―学生時代の同窓生だった男女四人は、俗世と隔絶された目的地を目指す。過去を取り戻す旅は、ある夜を境に消息を絶った共通の知人、梶原憂理を浮かび上がらせる。あまりにも美しかった女の影は、十数年を経た今でも各人の胸に深く刻み込まれていた。「美しい謎」に満ちた切ない物語。
主な登場人物
本小説は4章で構成されているのですが、各章それぞれ下記の4人の視点で話が進んでいきます。いずれも年齢は30代後半です。
- 利枝子:大学時代は薪生と付き合っており大恋愛をした。今は結婚して旦那さんも子供もいる主婦。容姿も悪くなく男性からも人気がある、一緒にいてホッとするタイプの女性であると自覚している。学生時代は話の中だけに出てくる彼らの共通の知人である梶原憂理と親友だった。
- 彰彦:実家が資産家で洗練されている。けど、飾らなくて快活な性格。長身で見目麗しい男性。少年時代も目が覚める程の美少年だった。山登りが好き。今回の旅行を企画し、下調べや宿の手配等周到に準備したリーダータイプ。蒔生のことが人間的に大好き。少し前にお見合いで結婚した。
- 蒔生:いつでも寛いでいる雰囲気で口数は多くはないけど存在感がある。傍から見ると何を考えているかわからないようなところがある。彰彦ほど美形ではないが女性から好かれるタイプの容姿。外資系企業に勤務している。
- 節子:誰とでも友達になれるお喋りな女性。彼女がいるだけで場が明るくなる。背が低く顔が小さい、バタ臭い感じの美人。旦那も子供もいるけど、バリバリのキャリアウーマンで課長をしている。
感想
4人とも夫々に個性があり、もの凄く知的であるところは共通しています。
そして皆人間的に深い。。
素人が考えつくような浅い人物設定ではないです。
各人物の過去がかなり深く作り込まれている印象です。
主人公達の考えや洞察が深過ぎることについて、4人ともどんだけ頭がいいんだという感じはしましたが、でも、リアリティはあるのです。
そして、リアリティがあると言っておきながら矛盾するようですが、こんな4人が現実に存在するのだろうかという気もします。
風景や心理の描写から会話から何から何まで興味深く描かれているし、人物的に4人も非常に魅力的なので非常に面白い小説です。
ストーリーとしてはシンプルです。
学生時代の友人同士が久しぶりに会って、とあることからY島(屋久島だと思われます)に旅行に行くだけです。
そこで彰彦が、各人「謎」を持ち寄り、旅の間にその謎について議論しようと提案します。彼らの旅のテーマは「非日常」と「謎」です。
神秘的な森の中を散策しながら、持ち寄った謎や、その時々に考えていることなど様々な会話が繰り広げられます。
で、彼らの話の中で、雑学的な話も上手い具合に披露されるんです。
あまり上手くない作者だと、多くの人が知らないであろう知識を披露してやろうっていう思いが透けて見えるものですが、それが押しつけがましくなくさりげないのが恩田陸の凄いところだなと思ったりもしました。
新たに知った言葉なんかも増えて、自分も少し頭良くなれた気がします(笑)
さもない軽い謎から美しい謎、そして共通の知人の重たい謎、さらには最大の謎である自分に考えを巡らせることになったり。
森の中を散策する中で各々過去を振り返り、知りたくなかった真相を突きつけられたり真相に辿り着かなかったりするのですが、その過程で読者も過去を見つめ直すことになると思います。
私も読んでいるうちに、学生時代などの過去を思い出し、彼らと一緒に自分に向き合った気がします。
あと書いておきたいことの一つは、この小説は文章が綺麗過ぎなことです。
作家としても格が違ってて、下手な作家だと太刀打ちできないレベルだと感じました。それもこの小説を魅力的なものにしています。
作家の中の作家っていう感じがします。
旅が終盤になり、終わりが見えてくると、主人公達と同様に淋しい気持ちになってきたり、彼らと一緒に旅をしたような感覚を覚えました。
いい小説って早くラストまで読み終えたい気持ちと、読み終えるのを遅らせたい気持ちが同居したりしませんか?
これもそんな小説の一つでした。
ハマる人は凄くハマる小説なんじゃないかと思います。
読んで良かった小説です。
【感想】綿矢りさ『私をくいとめて』-脳内の自分との会話は楽しそう!-
こんにちは。こなびすです。
今日は綿矢りささんの小説「私をくいとめて」のご紹介です。
アラサーのOLが主人公です。特にキャラが立っているわけでもなく、特別なスキルや状況があるわけではない、そこここにいそうな女性が描かれています。
ただ、普通の人と違うと思われるのは、彼女は自分の中の分身である「A」とよく会話をしています。あくまで自分の分身であるためAも完璧ではないけど、頼る気持ちもわかるっていう場面もちらほら出てきます。
女性の読書だったら更に共感できるのではないかなと思います。
内容(「BOOK」データベースより)
黒田みつ子、もうすぐ33歳。悩みは頭の中の分身が解決してくれるし、一人で生き続けてゆくことになんの抵抗もない、と思っていた。でも、私やっぱりあの人のことが好きなのかな?同世代の繊細な気持ちの揺らぎを、たしかな筆致で描いた著者の真骨頂。
感想
芥川賞を受賞した同著者の「蹴りたい背中」は読んだことがあり、本屋でこの作品のサイン本を見つけたため買ってみました。
表紙が可愛らしく、圧倒的にターゲットは女性という感じがしますが、男性である私も楽しく読めました。
週末は趣味に時間を割き、仕事して疲れたらマッサージに行き、はたまた買い物に行ったり、歯医者に行ったり。
同僚の恋愛話を聞いてみたり、そんな日常の中で気になる人が出来たり。
日常ですよね。
現実にも大多数の女性がよく過ごしているようなシチュエーションの女性が描かれています。
ただ、一般的な人と異なるのは、主に困った時や一人で退屈している時など、冒頭に書いたように主人公のみつ子は脳内の分身とよく会話します。
みつ子はわりとのんびりした性格でほんわかしているけど、色々と悩みや不安も抱えています。
一方で、分身である「A」は機転もきくし、とても頼りになる存在です。恋愛のアドバイスなんかもするのです。
なぜかみつ子に対して敬語で話しするのですが、そういうところにも好感が持てます(笑)
「A」すごくいいキャラしています。
深層心理もわかっているので自分の考えがまとまらない時など、的確にアドバイスをしてくれたり、誰よりも自分のことをわかっているため最も効果的に褒めてくれたり励ましてもらえる時なんか、「A」みたいなのが自分の頭の中にいたらいいだろうなぁって思います。
みつ子にとって最高の味方です。
とはいえ、そこまで完全に別の人格みたいなのが出来ていると、完全に妄想のようなものなので、やばい気もしないでもないです。。
登場人物は少なく、話もシンプルで複雑ではないので安心して読めます。
手に汗握る展開があるわけでも、感動しすぎて号泣するような小説でもないです。
でも、小さく心を揺さぶられるようなそんなシーンがあります。
実写映画化もされるようで、映画も気になります。
みつ子とA、同僚や、登場する男性とのやり取りがどんな感じになるのか、ストーリーの波はゆるやかですが、映画も安心して観れそうなものになるんじゃないかと思います。
カフェ等でまったり読むのが合うような小説です。
【感想】東野圭吾『秘密』-切な過ぎる名作小説-
こんにちは。こなびすです。
今日は東野圭吾さんの「秘密」の感想を書きます。
この小説、20年以上前の東野作品ですが、めっちゃ好きなんです。
読書が趣味と言えるくらいに小説を読み始めて15年以上経ち、これまで余裕で1,000冊以上読んでいますが、今でも私のベスト10に入っている作品です。
読書って読むタイミングによって感じることが違ってたりしますが、最近再読して、やっぱり最高だと認識しました。
内容(「BOOK」データベースより)
妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美を乗せたバスが崖から転落。妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった。その日から杉田家の切なく奇妙な“秘密”の生活が始まった
感想
面白い作品は昔のものだろうと何だろうと面白いですよね。
ここまでの小説に出会えることはなかなか無いと断言できますが、こういう出会いがあるから読書はやめられません。
一生のうちで出会えてよかったと思える小説の一つです。
娘の身体に妻が宿る。超常現象的なSFっぽい設定ですね。元々設定が面白い小説って好きなんですが、この小説はとにかく心理描写が見事でリアリティが凄いです。
事故が起こった結果として、妻が娘の身体に宿り、実質的には彼女は若返って人生をやり直すことになったということ。
そうすると、一緒に生活する中で二人の関係性はどうなるか。
娘が亡くなったことを悲しむ状況でもありますが、見た目は娘である最愛の妻がいます。
妻が成長していくにつれ、周りから見れば娘に他ならない妻との将来はどうなるのかという不安、再度得ることができた新しい人生を悔いが無いものにしようとしている妻に対する妬み、置いて行かれたような孤独感、そして、焦燥感。
様々な感情が主人公の平介の中で渦巻きます。
若干度が過ぎると思えなくもない描写もありますが、自分が同様の立場だったら、と考えると同じような感情が生じるだろうなって思います。
転落事故で妻だけでも生き残ったことは間違いなく幸運ではあったけど、2人で生活していく中での平介の気持ちを考えると胸が苦しくなります。
心が揺さぶられるシーンがいくつもあります。
周りにも相談できない中で、秘密を持つ2人。幸せに生活しようとするものの、愛しているが故に衝突も繰り返します。
娘の身体に宿った直子にしても、「自分」として振る舞えない苦しみがあります。学校等では勿論ですが、例えば、自身の身内に対してもです。
両親に対しては、孫として接しないといけないんです。。。
その両親は無論、直子は亡くなったと認識しています。
周囲からは自分はこの世にいないものとして扱われ、その状況を受け入れざるを得ない、その悲しみは想像を絶すると思います。
2人の苦悩が切な過ぎです。。
その一方で、この小説が見事だと思うのは、バス転落事故に関係する人物達とも関わり合いがあり、それの原因追及部分も非常に読み応えがあります。
事故を起こした亡くなった運転手の遺族等、真相を追う中で、新たな事実、人間関係が都度浮かび上がってきます。
そして、物語の最後の「秘密」です。
泣けます。。
愛している相手が幸せになれる道。
その選択をするまでにどれほどに悩み覚悟を要したか。考えれば考えるほど心が震えます。
繰り返しになりますが名作だと思います。まだ読んでいない人が羨ましいです。
記憶を消して再度読んでみたい程です。
未読の方は是非読んでみてください!
【感想】山崎マキコ『ためらいもイエス』-切なかったり笑えたりのラブストーリー-
こんにちは。こなびすです。
今日は山崎マキコさんの小説、「ためらいもイエス」の感想です。
恋愛系の小説なのですが、お堅い話ではなく、ユーモアたっぷりで結構笑えて、温かくなれたりもする。いい話ですし、気軽に読めますよ!
ふと寂しさを覚えた主人公のように、結婚適齢期の女性なら更に共感できることも多いんじゃないかと思います。
あらすじ(「BOOK」データベースより)
わたしは仕事以外になにもない、さっぱりとした日常をいたく気に入っていたはずだった―二十八歳にして処女、仕事ひとすじの奈津美に訪れた予想外のモテ期。三人の男を前に、はたして彼女は、棒に振ってしまった思春期を取りもどすことができるのか。愛すべき恋愛音痴のための可笑しくて、やがて切ないラブストーリー。
感想
以前に同著者の「さよなら、スナフキン」を読んだことがあって結構面白かったので、この小説も本屋で見かけて手に取ってみました。
結果、読んで良かったです!
ラブコメっぽい話です。
主人公は美人にも関わらずファッションに疎く、仕事一筋で生きてきたキャリアウーマンの奈津美という女性です。
性格的な事のみならず、環境に若干問題があったこともあり、同年代の男女でわーわー騒いだり、いかにも青春、のような思春期を過ごさず、おとなしく過ごしてしまった主人公。
そんな彼女は仕事に邁進していましたが、ふとした時に寂しさを感じ、結婚したいと思い始めます。
まずは、母親がセッティングしたお見合いをきっかけに、社内の男性等、何人かの男性と出会うことになります。
今思えば、主人公の性格等はよくありそうな設定のような気がします。
でも、主人公の周りのキャラがかなりいい味を出しています。
その中でも私のイチオシは、主人公をめっちゃ慕っている後輩の「青ちゃん」という女性です。
この娘が面白いんです。
主人公のことを「姐さん」と呼び、一人称は「おいら」「あっし」、語尾は「~ですぜ。」みたいな江戸っ子口調を多用する感じです(笑)
で、言動も面白いんですよ。
明るく物怖じしない性格で人懐っこいので情報通でもあります。
恋愛においては主人公の背中を押し、常に親身である。
主人公とは社内チャットで、休憩のタイミングを合わせて一緒に休憩したりよくしてます。
盛り上げ役であり、相談役でもあり、親友のような後輩です。
彼女のような後輩がいたら、さぞ幸せだろうなと思います。
あと、主人公がギンポ君と呼ぶ男性もいい味出してます。
どんないいキャラかと、説明すると長くなりそうなので割愛します(笑)
主人公の恋愛の方は、モテ期に入るのですが、恋愛経験が少ないだけに悩みながら少しずつ前進します。
ユーモラスな部分も多いですが、かといって大雑把な話でもなく、恋愛以外にも悩みの種があったり、心の機微も丁寧に書かれています。
シリアスとユーモア。いい感じにミックスされている作品だと思います。
やはり恋愛はいいなぁと思わせてくれる小説でした。
【感想】橋本紡『空色ヒッチハイカー』-東大受験生が勉強を放り出して兄の残した車で旅に出る。青春です!-
こんにちは。こなびすです。
またまた面白い小説に出会いました。
これだから読書はやめられません。
今日は橋本紡さんの「空色ヒッチハイカー」の感想です。受験勉強を放り出して車で旅に出る。色んなヒッチハイカー達と出会っては別れる。人との出会いにはドラマがあります。
こんな18歳の夏を過ごしたかったと思わずにはいられない青春小説です。
内容(「BOOK」データベースより)
人生に一度だけの18歳の夏休み。受験勉強を放り出して、僕は旅に出る。兄貴の残した車に乗って、偽の免許証を携えて。川崎→唐津、七日間のドライブ。助手席に謎の女の子を乗せて、心にはもういない人との想い出を詰めて、僕は西へ向かう。旅の終わりに、あの約束は果たされるだろうか―。大人になろうとする少年のひと夏の冒険。軽やかな文章が弾ける、ポップでクールな青春小説。
感想
凄くいいです。爽やかです。青春です。羨ましいです。
主人公には勉強もスポーツも何でも出来る兄がいます。東大に軽々受かりエリート官僚の内定をもらった兄です。
一方、主人公は兄の背中を常に追いかけ、兄を目標に努力しまくる努力家です。彼も東大を目指しています。
でもそんな彼が兄の偽の免許証を持って、兄が残した車に乗って旅に出るのです。
旅は道連れ。幸運なことに、いきなり謎の美女がヒッチハイクしているところに遭遇し、彼女と行動を共にすることになります。
運転して西を目指す状況で、ヒッチハイカー達と出会い、彼らを乗せていきます。
助手席の女の子との掛け合い、新たに出会うヒッチハイカーたちとのやり取り、話が進むにつれて判明していく事実。
イベントの発生タイミングと程度が丁度いいです!
アホらしくくだらない話もあり、ほろりと感動させられる話もあり、ラストもめっちゃ好みでした。
暗い話は無いですし、車の色と同じく、小説全体的に空色なイメージでした。
【感想】桐野夏生『バラカ』-ベビー・スークで売買された子の壮絶な人生と東日本大震災-
こんにちは。こなびすです。
見ていただき有難うございます。
今年も細々と読了後の小説の感想などを書いていきます。
今日は桐野夏生さんの「バラカ」です。
不運なことに紆余曲折があり、幼い時にベビー・スーク(子供が売買されている市場のことです。)に売られてしまったバラカという少女が主人公です。
かなり濃厚で深い話です。何から書いていいやら迷います。
内容(「BOOK」データベースより)
出版社勤務の沙羅は40歳を過ぎ、かつて妊娠中絶した相手の川島と再会。それ以来、子供が欲しくてたまらなくなってしまった。非合法のベビー・スークの存在を聞きつけ、友人・優子とドバイを訪ねた。そこで、少女「バラカ」を養女にしたが、全く懐いてくれない。さらに川島と出来婚をしていたが、夫との関係にも悩んでいた。そんな折、マグニチュード9の大地震が発生。各々の運命は大きく動き出す。
感想
話のスケールが大き過ぎて、まじでどこから何を書いていいかわかりません。。
さすが桐野さん、よくこんな話を上手いこと書けたなと思います。技量に感服しました。下手な作家が書いたら収拾つかなくなること間違い無しです。
背表紙に書いているレベルの内容を超ざっくり書くと、
- 日系ブラジル移民の間の子に生まれた「バラカ」、色々と経緯があって両親から引き離され幼少期にドバイのベビー・スークに売られる。
- 40過ぎのキャリアウーマンが子供欲しさに、噂で聞きつけたベビー・スークに行きバラカを買い、養女にする。
- 東日本大震災で福島の原発4基が全て爆発する。
- また色々あり、バラカは一人で警戒区域内に残され被爆する。
- 優しいボランティアの豊田老人に保護される。
- 反原発推進派、反対派の争いに巻き込まれていく。
これだけ見ても、もの凄い話の流れであると感じていただけると思います。
ただ、シナリオが凄く細かく練られていて、展開も早いし場面もどんどん切り替わりますが、いずれもリアリティがあります。
話の構成力が尋常ではありません。
原発の4工場が全て爆発している、現実にも有り得たかもしれない日本の姿。地震の後の凄惨な描写もでてきます。
当時は勿論毎日のように現地の報道がなされていましたが、今では被災者の報道はほとんど見られません。
やれ今年は東京でオリンピックだなんだと浮かれている一方で、被災して大事な人や家を失い、心に傷を負っている人が今でもたくさんいること、まだ仮設住宅暮らししている人などがいるということも改めて考えさせられました。
バラカは厳しい人生を歩むことになります。
敵も多くて、誰を信じていいのやらっていう状況になっていきます。
ただ、その中で彼女を支える人達がいる。
その人達の献身や、必死に生きようとする彼女の姿に胸を打たれます。
出会って良かったと思える名作です。是非読んでみてください。