こなびすのピクニック

書評、体験談、考えの発信など  -No matter what the weather, we are together-

【感想】角田光代『八日目の蝉』-誘拐犯が実の親以上の愛で子育てすること-

こんにちは。こなびすです。

 

今日は角田光代さんの小説『八日目の蝉』の感想を書きます。

映画化もされているみたいですが、それも納得の面白さでした。

話の展開も見事です。

 

主人公は不倫相手の生後間もない子供を誘拐し、逃亡しながら、その子を我が子として育てる話です。

 

感想部分はネタバレ含みますので、未読の方で先を知りたくない方は一気にスクロールしないようご注意ください!

 

 

 

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内容(「BOOK」データベースより)

逃げて、逃げて、逃げのびたら、私はあなたの母になれるだろうか…。東京から名古屋へ、女たちにかくまわれながら、小豆島へ。偽りの母子の先が見えない逃亡生活、そしてその後のふたりに光はきざすのか。心ゆさぶるラストまで息もつがせぬ傑作長編。第二回中央公論文芸賞受賞作。

 

  

感想

 

血がつながった生物学的な母親が必ずしも最高の母親であるというわけではないと、しみじみと思いました。

 

主人公の希和子は、元不倫相手の子供を誘拐します。

希和子はその子を薫と名付けます。(薫は本名ではないですが、ここでは薫で通します。)

 

その子は誘拐された当時は、生まれたばかりの赤ちゃんだったため、希和子が実の母ではないと疑うわけもなく育っていきます。

 

逃亡しながら子育てしているため、警察など追手を気にするのは勿論、住民票も保険証も無く逃亡しているため、薫が病気になったらどうするのか、学校に通わせてやることは出来ないのか、と悩みながら日々過ごしていきます。

 

そして、匿ってくれる人や生活する周りの人には真実を言えるわけもなく、騙し続けることに罪悪感も抱いたりしています。

 

希和子は薫を心から愛しています。

 

でも、逃亡しているが故に、その子とはいつかは引き離されるであろうことも認識しており、あと何年とは望まず、今日一日、明日一日でもいいから一緒にいたいと願い続けます。

 

誘拐は悪質極まる犯罪ですが、希和子の薫への想いは読んでいて切なくなります。

 

私は彼女と薫が逃げ切って2人で幸せになって欲しい、とさえ思いながら読んでいました。

 

 

 

以下、ネタバレ含みます。------------------------------------------------------------

 

 

結果として、やはり希和子は逮捕されることになり、実刑判決を受けます。

 

勿論、薫とも引き離されます。

 

 

そして、私がグッと来た箇所に、服役して数年が経ち、薫が大人になった後もなお、薫の幸せを願っている描写があります。

 

「愚かな私が与えてしまった苦しみからどうか抜け出していますように。どうかあなたの日々がいつも光に満ち溢れていますように。薫」と。

 

何年も会っていないにも関わらず、実の子でないにも関わらず心の底から愛しているのが伝わります。

 

 

 

薫は世界一悪い女に攫われたのだと実の両親から言われ、希和子を憎み、過去に目を背け続け大人になります。

 

でも、幼児期に希和子と引き離された後、家を飛び出して希和子を探すくらいに、本当は希和子との生活は素晴らしいものだったと大人になってから認識する場面があります。

 

 

薫の実の親が希和子ほどには良い人柄でもないこともあるでしょう。

 

父親は希和子と不倫していた事実もありますし、母親も浮き沈みが激しく、夜遊び、不倫をし、薫のことを腫れ物に触るように接します。

 

それが我が子が誘拐されてストレスが多い状況に晒されたため、そんな風になったのか、仮に誘拐犯されていなくてもそうなってたのかはわかりません。

 

 

いずれにしても、希和子と薫の関係は、本当の親子以上のものだったと思います。

 

親子関係って何だろうかと考えさせられました。

 

薫も希和子と暮らしていた方が幸せになれていたんじゃないかとすら思います。

 

いつか大人になり再会し、二人で笑い合うような描写もあって欲しかったなぁとも思いました。

 

 

希和子は犯罪者だし、被害者の家族の気持ちはどうなるんだという思いを持つ人もいるでしょう。

 

私も誘拐した瞬間の希和子の気の迷いっぷりは全く理解できませんでした。。

 

テーマが深いだけに、いろいろな感想を持つ方がいると思います。

 

親子の在り方について考えさせられると思いますので、子供の接し方に悩んでいる方等、読んでいただくと色々考えるきっかけになるかもしれません。

 

 

「八日目の蝉」というタイトルの意味もどういう意味かわからん・・・。と思いつつ読み進めていくことになりますが、物語の途中で明らかになります。

 

ここではその意味は割愛しますが、その意味もまた深く、心に染みます。

 

 

傑作です。

 

 

 

【感想】石田衣良『美丘』-人生は火のついた導火線である-

こんにちは。こなびすです。

 

梅雨に入り雨天の日も多いし、気温も高くなってきて、マスクしてるのも苦しくなってきましたよね。

 

今日は石田衣良さんの小説「美丘」の感想です。

 

この作品はよくある「恋人が不治の病系」の恋愛小説です。

設定としては珍しくないですが、物凄く感動できるし、主人公達が大学生で若く、エネルギーにも溢れていて、若いっていいなぁと思わせてもくれます。

(若い頃に戻りたい・・・。)

 

愛と命の物語です。 

 

 

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 内容(「BOOK」データベースより)

美丘、きみは流れ星のように自分を削り輝き続けた…平凡な大学生活を送っていた太一の前に突然現れた問題児。大学の準ミスとつきあっていた太一は、強烈な個性と奔放な行動力をもつ美丘に急速に魅かれていく。だが障害を乗り越え結ばれたとき、太一は衝撃の事実を告げられる。彼女は治療法も特効薬もない病に冒されていたのだ。魂を燃やし尽くす気高い恋人たちを描いた涙のラブ・ストーリー

 

感想

 主人公の太一とその恋愛の相手の美丘は大学生です。

 

美丘は、幼少期の手術の影響で、現代医学の力では治療できない、クロイツフェルト・ヤコブ病を発症する可能性がある状態で太一と出会います。

 

この病が発症すると、脳がスポンジ状になることにより、記憶や思考のみならず、徐々に運動機能も失うことになるという悪魔のような病です。

 

認知症のように記憶が曖昧になり、言葉も忘れていくため、会話もできなくなり、周囲の人はもちろん、自分を自分とも認識できなると共に、肉体的な機能も失っていきます。

 

時間が経つにつれ、歩行に支障が出、腕も動かせなくなり、首から下が動かせなくなり、顔も動かせず、動かせるのは瞼のみの状態になり、最後は肺や心臓すら動くことを忘れてしまう。

即ち、心肺機能すら奪われて死に至ります。

 

発症すれば万に一つも助からない。酷過ぎる病気です。

 

美丘はそんな難病発症の可能性と隣り合わせで大学生まで生活してきたわけです。

 

 

「人生は火のついた導火線」であると言い、周囲の大学生が漫然と過ごしている中、彼女は常に死が身近にあることを認識しているが故に、「今を生きる」を地でいってます。

 

自由奔放に生き、エネルギーに満ち溢れていて、何をするにも全力です。

遊ぶことだけでなく、勉強もしっかりしています。そして、恋愛も。

 

彼女の生き方を見ていると(読んでいると)、だらだらと過ごしている自分の愚かさが一層際立つ気がします。

一生懸命生きないとなぁと思わされます。

 

物語の後半、その病が発症してしまい、ラストは非常に切なくなります。

 

主人公の太一は彼女のことを心の底から愛しており、最期の時まで寄り添います。

 

残された時間が刻一刻と少なくなっていくだけでなく、彼女が彼女で無くなっていく、

日常当たり前にできていたことが出来なくなっていく様子がリアルに描写されています。

 

そして、発症してから残りの貴重な時間を大切に大切に過ごす太一と美丘。

 

彼女の病のことを知らされた時にも真正面から受け入れ、一緒に笑い、一緒に泣き、彼女が言葉を忘れても、太一のことがわからなくなっても傍に居続ける、太一と美丘の愛の深さに泣けます。

 

命の限り愛するとはこういうことなんだろうなと感じました。

 

 

最後に印象的だった言葉を載せておきます。

 

周囲のみんなが知らなくて、美丘が知っているという前置きがあり、美丘は以下の言葉を発します。 

 

「時間は永遠にはない。わたしたちはみんな火のついた導火線のように生きてる。こんな普通の一日だって、全部借り物だよ。借りた時間は誰かがいつかまとめて取り立てにやってくるんだ。」

 

命とは愛とは何かを考えさせられる名作です。

 

 

 

【感想】宮下奈都『太陽のパスタ、豆のスープ』-ドリフターズ・リスト作ってみませんか?-

こんにちは。こなびすです。

 

今日は宮下奈都さんの『太陽のパスタ、豆のスープ』の感想を書きます。

 

本作の主人公の明日羽(あすわ)は結婚式間近で婚約破棄されドン底にいます。

 

そんな状況の中で、明日羽はドリフターズ・リストというものを知り、作成するのですが、ドリフターズ・リストって知ってますか?

 

ドリフターズは漂流者を意味し、ドリフターズ・リストとはやりたいことリストのことです。

ドリフターズって、私はいかりや長介の有名なグループが思い浮かびました笑)

 

漂流者の道標となるようなリストです。

 

このリストに書いたことを実行していくことにより、彼女は少しずつ少しずつ立ち直っていきます。

 

 

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内容(「BOOK」データベースより)

結婚式直前に突然婚約を解消されてしまった明日羽。失意のどん底にいる彼女に、叔母のロッカさんが提案したのは“ドリフターズ(やりたいこと)・リスト”の作成だった。自分はこれまで悔いなく過ごしてきたか。相手の意見やその場の空気に流されていなかっただろうか。自分の心を見つめ直すことで明日羽は少しずつ成長してゆく。自らの気持ちに正直に生きたいと願う全ての人々におくる感動の物語。

 

 

 

感想

 

全体的に優しい雰囲気の物語です。明日羽もふんわりした性格です。

 

明日羽はすごくいい人なので、婚約破棄されたとか不憫でなりません。

 

別れは辛いですよね。

 

 

家族や職場、彼女の周りの人達もいい人達が多いです。

 

特にユーモラスな叔母であるロッカさん。

 

独身で飄々としていて、事あるごとに明日羽の元に通います。主にごはんを食べにですが。(ロッカさんって、外国人かなと思いましたか?六花さんでロッカさんです。)

 

明日羽は、ロッカさんにドリフターズ・リストのことを教わります。

 

始めはリスト作成にも乗り気でなかったものの、作成後は少しずつクリアしていき、新たなやりたいことを追加する等、中身も更新していきます。

 

彼女がどんなことをリストに書き、実行していったのかは読んでみて下さい。

 

新たなことに挑戦したり、それを継続することによって人間関係然り、考え方然り、徐々に彼女自身にも変化が表れ、立ち直っていきます。

 

新しいことをしたり、普段しないことをするようになると気づきもありますよね。

 

そういう気づきを得たり、会社と家を往復するだけだと出会わない人と出会えたり、何か新しいことをするのは、人生に刺激とまではいかないまでも、何かしら新鮮さを与えてくれるものだと改めて思いました。

 

そして、ドリフターズ・リストを作ってみようかなとも思いました。

実現させていくのも楽しそうだなって。

 

何をするにも前向きになれないような人は読んでみて損は無いと思います。

 

いきなり婚約破棄される場面から始まるのですが、全体的に暗い雰囲気でもないので、気軽に読めます。

 

 何か悩み事があったり、人生をつまらなく感じている人にとって、そっと応援してくれるような小説ではないかと思います。

 

 

【感想】西加奈子『i(アイ)』-想像することは寄り添うこと-

こんにちは。こなびすです。

 

今日は西加奈子さんの『i』という作品の感想を書きます。

 

私は5月に入ってからは本作の著者である西加奈子さんの本ばかり読んでました。

ハマるきっかけになったのが、この『i』という作品です。

 

内容説明に「心揺さぶられる」と書かれていますが、その通りでした。

心地よい余韻も残る名作です。

 

 

  

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 内容(「BOOK」データベースより)

「この世界にアイは存在しません。」入学式の翌日、数学教師は言った。ひとりだけ、え、と声を出した。ワイルド曽田アイ。その言葉は、アイに衝撃を与え、彼女の胸に居座り続けることになる、ある「奇跡」が起こるまでは…。西加奈子の渾身の「叫び」に心ゆさぶられる傑作長編。

 

 感想

主人公はワイルド曽田アイという名前です。ご想像の通り、生粋の日本人ではありません。

 

彼女はアメリカ人の父ダニエルと、日本人の母綾子の娘ですが、

彼女はシリアで生まれ、生後間もない時にその両親の養子になりました。

 

そして、幼少期はアメリカで生活していましたが、父親の仕事の関係で日本に移住することになるのですが、この小説は、彼女が子供から大人になるまでの半生の物語です。

 

両親は経済的にとても裕福で、アメリカに住んでいた時はお手伝いさんを雇っているくらいです。

そして何より、二人とも人間的に非の打ち所が無いような人です。

 

お手伝いさんは経済的に厳しい人だったため、母親は服をあげたり(それにしても彼女は「もらってもらう」という言い方をします)、外国で災害が起こった際には多額の寄付をするような善意溢れる人です。

 

アイはシリアという貧困に苦しむ人が多くいる厳しい国で生まれながら、最高に恵まれた環境に移ったわけです。

 

両親は養子であることなど気にせず、アイを迎え入れた時から自分達の子だと、愛情を持って育てます。

 

ただ、アイはその状況を素直に喜べずに悩み、苦しんでしまいます。。

 

 

なぜかというと、自分はどういうわけか養子の時に選ばれて恵まれた環境に来たけれど、もし自分でなかったなら、今苦しんでいる別の子が両親の元に来たわけで、どうして自分が選ばれたのか、どうして自分がこの恵まれた環境を享受することになったのかと、罪悪感を持ち始めます。

自分が幸せになったばかりに選ばれなかった人は大変な生活をしているかもしれないと。。

 

どんだけ優しいのでしょうか。優し過ぎです。

 

いい子過ぎる上に頭も良すぎて、尋常じゃないくらい想像力が豊かなのです。

 

そのため、自分から欲しい物をねだったり、わがままを言うことなく育ちました。

 

彼女は物静かな性格です。

自分からは心を開かず、同級生等含め周りの人がもし自分の家庭より豊かでないと罪悪感を持つため、自分と同じように裕福であれば安心するという思いを持っています。

 

恵まれていることに対して罪悪感を持つことも、恵まれていない人からすれば非常に贅沢な悩みであることも理解しています。そのため更に罪悪感が募るという負のスパイラルです。

 

また、見た目も日本人とは異なり、両親とも血のつながりがないことにも悩み、常にコンプレックスに苛まれています。

 

10代という素晴らしい時代、恵まれた環境にいながらそんな風に考えてしまう優し過ぎるアイに同情してしまいます。

 

そんな中で、日本で高校生になったときに、一人の同級生ミナと出会います。

人生で初めての親友です。

そのミナが快活でとてもいい娘で、アイは彼女と心を通わせるのですが、彼女がアイにとって大きな存在となります。

 

この小説では、実際にあった災害、阪神大震災やニューヨークのテロ等も話として出てきます。

アイは死者が出るような災害をニュース等で耳にするたび心を痛めます。

同級生たちが学校で話題にしないような他国の事故や災害等でも心を痛めます。

 

そして、同様に考えるわけです。

その災害で被害を被ったのはどうして自分でなかったのかと。

自分と亡くなった人では何が違うのかと。

 

心を痛めたり感じることは人それぞれだと思いますが、私の場合は、不憫だなとは思うもののアイのように、そこから先を考えることはあまりないなと突きつけられました。

 

そして、タイトルの言葉ですが、「想像することは寄り添うこと」であるということがとても心に響きました。

 

想像することの大切さを痛感し、そして自分の想像力の無さに気づかされました。

私はアイのように頭は良くないですが、 少なくとも少しは想像力を働かせてみようと思わされました。

 

 

感想を書くつもりが、大半が説明みたいになりました。。

 

良さを伝えたいという気持ちは凄く大きいのですが、正直、どういうところが面白かったのか言語化することは難しいのです。

(小説に限らず良い作品の良さを上手に伝えられる人が羨ましい・・・。)

 

深く考えさせられることは確かです。

 

いくつかの文章について、その場で反芻させられ数十秒考えさせられた箇所もあります。

 

小説全体としても物静かな印象ですが、物凄い情熱が燻っているような筆者の強い想いを感じました。

 

そして、このような作品を書くことができる西加奈子さんの想像力と人を想う心に感服しました。

 

この本と出会えて良かったです。また必ず読み返します。

 

 

 

【感想】服部まゆみ『この闇と光』-何も書けないですが、読んで欲しい名作-

こんにちは。こなびすです。

 

今日は、服部まゆみさんの「この闇と光」の感想を書きます。

 

とはいえ、何を書いてもネタバレになってしまいそうでほとんど書けません。

ネタバレになりそうなことは全て避けて書けることを書こうと思います。

 

前情報無しで読んだのですが、相当衝撃を受けました。

 

ネタバレできない系の小説も数々読んできましたが、この作品は個人的には衝撃度トップクラスですので、未読の方には是非読んでいただきたいです。

 

 

 

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 内容(「BOOK」データベースより)

森の奥に囚われた盲目の王女・レイアは、父王の愛と美しいドレスや花、物語に囲まれて育てられた…はずだった。ある日そのすべてが奪われ、混乱の中で明らかになったのは恐るべき事実で―。今まで信じていた世界そのものが、すべて虚構だったのか?随所に張りめぐらされた緻密な伏線と、予測不可能な本当の真相。幻想と現実が混ざり合い、迎えた衝撃の結末とは!?至上の美を誇るゴシックミステリ!

 

感想

先に書いておくと、詳しいことは何も書けないため、いつにも増してしょうもない感想になると思います。

 

ただ、騙されたつもりで是非読んでいただきたい作品です。

 

私が手に取ったきっかけは、本屋でPOPがついていたからです。詳しい内容は覚えてないですが、「店員おススメで面白い」みたいな内容でした。

 

表紙の裏側を読んでみて、王女?レイア?とか、海外が舞台かと思い、その時はいまいち興味も持てなかったですが、手ぶらで帰るのもどうかと思ってなんとなしに買ってみました。

 

初読みの作家さんでしたし、面白くなかったら読むのやめたらいいかと思っていましたが、結果、大当たりでした。

 

正直な話、序盤は特に面白くもなく、淡々と読み進めていましたが、中盤以降一気にレッドゾーンに振り切り、そのまま一気読みしました。

 

 

衝撃でした。

 

 

何が衝撃かは勿論伏せます。

 

 

真相を知った時に、ただただ衝撃を受けました。まじか、って感じです。

 

 

ストーリーは書けないので、他に伝えたいことの一つに、文章が抜群に美しいことがあります。

 

私のような素人でもわかるくらい文章が綺麗です。

 

この作家さんは既に亡くなっているらしいのですが、かなり力のある作家さんだなと思いました。

 

とにかく、文豪感があります。

なので、拙い文章の作家を毛嫌いしている人は、心配せず読めると思います。

 

たまたま手に取ってこの本に出会えて良かったなっていう傑作です。

 

最後まで読んだ人は間違いなく驚いたと思うので、その人と語り合いたい度がかなり高い名作です。

 

気になった方は是非読んでみてください。

 

 

【感想】秋吉理香子『絶対正義』-融通の利かない正義にイライラしっ放し -

こんにちは。こなびすです。

 

今日は秋吉理香子さんの小説「絶対正義」の感想です。

 

正義を絶対的に信じ、実行する高規範子という名の人物が登場します。

 

例えば、法定速度が時速30kmの道路で、35kmで走行しただけで咎められるってどうでしょうか?意図的に違反しようとしていたわけでもないのにです。

本来は30kmを守るべきなのもわかりますが、でも…って感じです。

 

彼女の周囲の人物は彼女のおかげで、翻弄され、人生が悪い方向に向いていきます。

 

 

 

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 内容(「BOOK」データベースより)

由美子たち四人には、強烈な同級生がいた。正義だけで動く女・範子だ。彼女の正義感は異常で、法から逸れることを絶対に許さない。由美子たちも、やっと掴んだ夢や恋人との関係、家族までも壊されそうになり…。このままでは人生を滅茶苦茶にされてしまう!追い詰められた四人は範子を殺した。五年後、死んだはずの彼女から一通の招待状が届く!

 

 

感想

前述の範子に、正義を守る人間に終始イライラさせられました。

 

正義の味方ではあるのでしょうけど、人間らしい思いやりや優しさが無いとなんとムカつくことか。

 

彼女が言うこと、行うことは全て正しいです。

法律の通り、規則の通り。

 

間違ってはないです。

だから周りの人間も反論もできず、追い込まれていきます。

 

例えば、こんなエピソードもあります。

 

学校内で煙草を吸っていた生徒数名を、怖いけれども生徒から慕われている先生が見つけます。

 

詳細は端折りますが、生徒らを思いやりのある言葉で諭して、反省させて煙草だけ没収します。

 

温かいエピソードなのです。

 

生徒たちも反省しているし、本来ならめでたしめでたしです。

 

と思いきや、警察が校内に来ます。

 

目撃していた範子が電話したのです。

 

で、その様子を告げるわけです。

警察も事を大きくする必要もないと判断しますが、範子はそれも不服です。

 

後日、範子は教育委員会にその事実を告げ、学校側は法律違反を学校ぐるみで隠蔽したとして罪を追求され、結果、その先生だけでなく校長も学校を去ることになります。

 

注意した先生は退職間近のお爺さん先生で、そのおかげで退職金も受け取れずです。。

完全に同情します。

 

 

 

法律に対する意識の高さなど、範子は間違ってはいないのでしょう。

でも、全く優しくはないですよね。

 

そんな感じのエピソードが「多々」盛り込まれていて、彼女の友人だった人間達が彼女を憎んでいくことになります。

 

人の気持ちは全く考慮せず、法律第一。

タイミング云々も全く配慮無しのため、ほんの少しの間だけ見逃す、ということもしません。

常にボイスレコーダーやカメラも持ち歩き、裁判でも勝てるように、確実に罰するために、証拠もしっかり押さえます。

 

 

世の中、正しいことが人間にとって一番ではないなって考えさせられました。

 

ストーリー自体は、死んだはずの範子から招待状が届くところから始まるミステリーです。

彼女にどのように翻弄され、彼女をどのように殺害するに至ったか、はたまた、その彼女から招待状が届くとはどういうことか。

ストーリー展開も面白く、先が気になり引き込まれると思います。

 

秋吉さんの作品を読むのは初でしたが、面白かったので、他の作品も読んでみようと思いました。

 

正義に負の面があるのかわかりませんが、別の側面を見せられた感じがしました。

 

人間、正しさだけではダメです。

 優しさは必要ですね。

しみじみ思いました。

 

【感想】伊坂幸太郎『終末のフール』-人類滅亡確定時、人は余生をどのように過ごすのか-

こんにちは。こなびすです。

 

久しぶりの更新です。

緊急事態宣言後に基本的に在宅勤務になったのですが、残業多めです…。

 

今日は伊坂幸太郎さんの「終末のフール」の感想を書きます。

 

コロナで暗いニュースばかりの中、人類の終末も可能性としてはあり得るのかなとも思い、地球滅亡の3年前が描かれているこの作品を再度読んでみようと思いました。

 

余命3年だとしたら、皆さんは残りの時間をどのように過ごしますか?

 

  

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内容(「BOOK」データベースより)

八年後に小惑星が衝突し、地球は滅亡する。そう予告されてから五年が過ぎた頃。当初は絶望からパニックに陥った世界も、いまや平穏な小康状態にある。仙台北部の団地「ヒルズタウン」の住民たちも同様だった。彼らは余命三年という時間の中で人生を見つめ直す。家族の再生、新しい生命への希望、過去の恩讐。はたして終末を前にした人間にとっての幸福とは?今日を生きることの意味を知る物語。

 

 

感想

この作品は短編集で、それぞれ主人公が異なりますが、舞台は同じ地球滅亡3年前の仙台での話です。

 

コロナで仮に世界の終末になったらこんな状況になるんだろうか、などと考えながら読んでました。

 

この作品では、小惑星の衝突により人類の滅亡が確定しています。

 

人類滅亡が確定したニュースが流れた直後は、世は大荒れに荒れ、殺人、暴力、強盗など含め、何でもありの世の中となります。

警察もほぼ機能しなくなります。

警察も職業の一つなので、やってられないと思う人も多いからですね。

 

その数年後の小康状態の間の話です。

 

絶望して自殺する人、一家心中を図る家族、ヤケになり暴力に走る人などがいる一方で、何も変わらず生活し、余生を出来るだけ幸せなものにしようとする人も多くいます。

 

政治家や警察などだけでなく、スーパーの店員さんも一部の使命感ある人だけが残っている状況なのです。

(今作に登場するスーパーの店長は自衛のために猟銃を手元に持っていたりします。食料品店などは真っ先に強奪の対象となったからです。)

 

あと数年で死ぬことがわかっているから、公務員等も含め、多くの人は働く必要もないと思っているわけですが、その気持ちもわからないでもないですよね。

 

 

そんな中でも、作中でインフラは稼働していましたが、現実ならそれも怪しいだろうし、どうなるんだろうなと思いました。

 

印象的だったのが、一人で変わらず鍛錬を積むキックボクサーのチャンピオンです。大きなタイトルマッチ前にそういう状況になったのですが、そのタイトルマッチの前と同様に状況に関わらず練習に練習を重ねています。

ストイックに練習する様がカッコ良かったです。

 

また、妻が妊娠して産むか産まないか悩む人や、新たな恋愛を求める人、大切な人を失った人、復讐を糧に生きてる人、など色んな人達が登場します。

 

世界の終末でも生き方は様々です。

 

私の場合は、事なかれ主義で争い事は嫌いなので、平穏無事に過ごしたいと思うだろうなと思います。

とはいえ、実際こんな状況になったら相当ジタバタして無駄にどこかに移動とかするかもなとも思いますが。

 

暗い世界の話ではありますが、必要以上に暗い雰囲気の作品でもありません。

 

というのは、伊坂さんの作品らしく個性的なキャラクターや軽快な会話も多く、終末の中でもゆるい雰囲気だったり、希望が見えるような感じもあるからです。

 

気軽に読めるし、人生とは何か、考えさせられる良い作品です。