【感想】西加奈子『i(アイ)』-想像することは寄り添うこと-
こんにちは。こなびすです。
今日は西加奈子さんの『i』という作品の感想を書きます。
私は5月に入ってからは本作の著者である西加奈子さんの本ばかり読んでました。
ハマるきっかけになったのが、この『i』という作品です。
内容説明に「心揺さぶられる」と書かれていますが、その通りでした。
心地よい余韻も残る名作です。
内容(「BOOK」データベースより)
「この世界にアイは存在しません。」入学式の翌日、数学教師は言った。ひとりだけ、え、と声を出した。ワイルド曽田アイ。その言葉は、アイに衝撃を与え、彼女の胸に居座り続けることになる、ある「奇跡」が起こるまでは…。西加奈子の渾身の「叫び」に心ゆさぶられる傑作長編。
感想
主人公はワイルド曽田アイという名前です。ご想像の通り、生粋の日本人ではありません。
彼女はアメリカ人の父ダニエルと、日本人の母綾子の娘ですが、
彼女はシリアで生まれ、生後間もない時にその両親の養子になりました。
そして、幼少期はアメリカで生活していましたが、父親の仕事の関係で日本に移住することになるのですが、この小説は、彼女が子供から大人になるまでの半生の物語です。
両親は経済的にとても裕福で、アメリカに住んでいた時はお手伝いさんを雇っているくらいです。
そして何より、二人とも人間的に非の打ち所が無いような人です。
お手伝いさんは経済的に厳しい人だったため、母親は服をあげたり(それにしても彼女は「もらってもらう」という言い方をします)、外国で災害が起こった際には多額の寄付をするような善意溢れる人です。
アイはシリアという貧困に苦しむ人が多くいる厳しい国で生まれながら、最高に恵まれた環境に移ったわけです。
両親は養子であることなど気にせず、アイを迎え入れた時から自分達の子だと、愛情を持って育てます。
ただ、アイはその状況を素直に喜べずに悩み、苦しんでしまいます。。
なぜかというと、自分はどういうわけか養子の時に選ばれて恵まれた環境に来たけれど、もし自分でなかったなら、今苦しんでいる別の子が両親の元に来たわけで、どうして自分が選ばれたのか、どうして自分がこの恵まれた環境を享受することになったのかと、罪悪感を持ち始めます。
自分が幸せになったばかりに選ばれなかった人は大変な生活をしているかもしれないと。。
どんだけ優しいのでしょうか。優し過ぎです。
いい子過ぎる上に頭も良すぎて、尋常じゃないくらい想像力が豊かなのです。
そのため、自分から欲しい物をねだったり、わがままを言うことなく育ちました。
彼女は物静かな性格です。
自分からは心を開かず、同級生等含め周りの人がもし自分の家庭より豊かでないと罪悪感を持つため、自分と同じように裕福であれば安心するという思いを持っています。
恵まれていることに対して罪悪感を持つことも、恵まれていない人からすれば非常に贅沢な悩みであることも理解しています。そのため更に罪悪感が募るという負のスパイラルです。
また、見た目も日本人とは異なり、両親とも血のつながりがないことにも悩み、常にコンプレックスに苛まれています。
10代という素晴らしい時代、恵まれた環境にいながらそんな風に考えてしまう優し過ぎるアイに同情してしまいます。
そんな中で、日本で高校生になったときに、一人の同級生ミナと出会います。
人生で初めての親友です。
そのミナが快活でとてもいい娘で、アイは彼女と心を通わせるのですが、彼女がアイにとって大きな存在となります。
この小説では、実際にあった災害、阪神大震災やニューヨークのテロ等も話として出てきます。
アイは死者が出るような災害をニュース等で耳にするたび心を痛めます。
同級生たちが学校で話題にしないような他国の事故や災害等でも心を痛めます。
そして、同様に考えるわけです。
その災害で被害を被ったのはどうして自分でなかったのかと。
自分と亡くなった人では何が違うのかと。
心を痛めたり感じることは人それぞれだと思いますが、私の場合は、不憫だなとは思うもののアイのように、そこから先を考えることはあまりないなと突きつけられました。
そして、タイトルの言葉ですが、「想像することは寄り添うこと」であるということがとても心に響きました。
想像することの大切さを痛感し、そして自分の想像力の無さに気づかされました。
私はアイのように頭は良くないですが、 少なくとも少しは想像力を働かせてみようと思わされました。
感想を書くつもりが、大半が説明みたいになりました。。
良さを伝えたいという気持ちは凄く大きいのですが、正直、どういうところが面白かったのか言語化することは難しいのです。
(小説に限らず良い作品の良さを上手に伝えられる人が羨ましい・・・。)
深く考えさせられることは確かです。
いくつかの文章について、その場で反芻させられ数十秒考えさせられた箇所もあります。
小説全体としても物静かな印象ですが、物凄い情熱が燻っているような筆者の強い想いを感じました。
そして、このような作品を書くことができる西加奈子さんの想像力と人を想う心に感服しました。
この本と出会えて良かったです。また必ず読み返します。