こなびすのピクニック

書評、体験談、考えの発信など  -No matter what the weather, we are together-

【感想】恩田陸『黒と茶の幻想』-知的な会話が最高。予定調和的な会話にうんざりしている方へ。-

こんにちは。こなびすです。

 

今日は恩田陸さんの小説「黒と茶の幻想」の感想を書きます。

 

この小説、「大人版の夜のピクニック」なんて呼ばれることもあるみたいです。

なるほどと思いました。

夜のピクニックは高校生の男女が主人公ですが、この作品はアラフォーの男女が主人公です。場面のほとんどが歩いているだけというのも共通しています。

 

旅のテーマの1つとして各人が謎を持ち寄る、みたいなのがあって、その謎を探求しつつ回想したり、ほぼ会話だけで話が進みます。

大きな事件が起きることも無いですが、それだけで惹き込まれる魅力的な小説です。

同著者の「夜のピクニック」が好きな人はこの小説も好きだと思います。

 

 

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内容(「BOOK」データベースより)

太古の森をいだく島へ―学生時代の同窓生だった男女四人は、俗世と隔絶された目的地を目指す。過去を取り戻す旅は、ある夜を境に消息を絶った共通の知人、梶原憂理を浮かび上がらせる。あまりにも美しかった女の影は、十数年を経た今でも各人の胸に深く刻み込まれていた。「美しい謎」に満ちた切ない物語。

 

主な登場人物

本小説は4章で構成されているのですが、各章それぞれ下記の4人の視点で話が進んでいきます。いずれも年齢は30代後半です。

  • 利枝子:大学時代は薪生と付き合っており大恋愛をした。今は結婚して旦那さんも子供もいる主婦。容姿も悪くなく男性からも人気がある、一緒にいてホッとするタイプの女性であると自覚している。学生時代は話の中だけに出てくる彼らの共通の知人である梶原憂理と親友だった。
  • 彰彦:実家が資産家で洗練されている。けど、飾らなくて快活な性格。長身で見目麗しい男性。少年時代も目が覚める程の美少年だった。山登りが好き。今回の旅行を企画し、下調べや宿の手配等周到に準備したリーダータイプ。蒔生のことが人間的に大好き。少し前にお見合いで結婚した。
  • 蒔生:いつでも寛いでいる雰囲気で口数は多くはないけど存在感がある。傍から見ると何を考えているかわからないようなところがある。彰彦ほど美形ではないが女性から好かれるタイプの容姿。外資系企業に勤務している。
  • 節子:誰とでも友達になれるお喋りな女性。彼女がいるだけで場が明るくなる。背が低く顔が小さい、バタ臭い感じの美人。旦那も子供もいるけど、バリバリのキャリアウーマンで課長をしている。

 

感想

4人とも夫々に個性があり、もの凄く知的であるところは共通しています。

そして皆人間的に深い。。

 

素人が考えつくような浅い人物設定ではないです。

各人物の過去がかなり深く作り込まれている印象です。

 

主人公達の考えや洞察が深過ぎることについて、4人ともどんだけ頭がいいんだという感じはしましたが、でも、リアリティはあるのです。

そして、リアリティがあると言っておきながら矛盾するようですが、こんな4人が現実に存在するのだろうかという気もします。

 

風景や心理の描写から会話から何から何まで興味深く描かれているし、人物的に4人も非常に魅力的なので非常に面白い小説です。

 

ストーリーとしてはシンプルです。

学生時代の友人同士が久しぶりに会って、とあることからY島(屋久島だと思われます)に旅行に行くだけです。

そこで彰彦が、各人「謎」を持ち寄り、旅の間にその謎について議論しようと提案します。彼らの旅のテーマは「非日常」と「謎」です。

 

神秘的な森の中を散策しながら、持ち寄った謎や、その時々に考えていることなど様々な会話が繰り広げられます。

で、彼らの話の中で、雑学的な話も上手い具合に披露されるんです。

 

あまり上手くない作者だと、多くの人が知らないであろう知識を披露してやろうっていう思いが透けて見えるものですが、それが押しつけがましくなくさりげないのが恩田陸の凄いところだなと思ったりもしました。

新たに知った言葉なんかも増えて、自分も少し頭良くなれた気がします(笑)

 

さもない軽い謎から美しい謎、そして共通の知人の重たい謎、さらには最大の謎である自分に考えを巡らせることになったり。

 

森の中を散策する中で各々過去を振り返り、知りたくなかった真相を突きつけられたり真相に辿り着かなかったりするのですが、その過程で読者も過去を見つめ直すことになると思います。

 

私も読んでいるうちに、学生時代などの過去を思い出し、彼らと一緒に自分に向き合った気がします。

 

あと書いておきたいことの一つは、この小説は文章が綺麗過ぎなことです。

作家としても格が違ってて、下手な作家だと太刀打ちできないレベルだと感じました。それもこの小説を魅力的なものにしています。

作家の中の作家っていう感じがします。

 

旅が終盤になり、終わりが見えてくると、主人公達と同様に淋しい気持ちになってきたり、彼らと一緒に旅をしたような感覚を覚えました。

いい小説って早くラストまで読み終えたい気持ちと、読み終えるのを遅らせたい気持ちが同居したりしませんか?

これもそんな小説の一つでした。

 

ハマる人は凄くハマる小説なんじゃないかと思います。

読んで良かった小説です。