【感想】原宏一『握る男』 -○○を握る才覚があり過ぎる-
こんにちは。こなびすです。
原宏一さんの「握る男」についてのレビューです。
寿司屋の小僧から外食産業の帝王にまでなった男と、その男の側近として仕える兄弟子の視点から語られる奇妙な絆の物語です。
金森という比較的平凡な男が語り手です。
彼が築地の近くの街中の寿司屋「つかさ鮨」で住み込みで働くところから始まります。
金森が働き始めてから、少し経ったところで、彼より年下の16歳で身長160cmに満たない小柄な少年の徳武が、小僧として同じ寿司屋に雇われます。
徳武は人懐っこい笑顔を武器に人に取り入るのが上手く、常連客からもすぐに気に入られるようになります。また、親方に初めて寿司を握らせてもらえる場面でも、その時に備えて努力をしていたため、兄弟子と引けを取らない寿司を握り誰からも認められます。
とても仕事ででき、素早く動くため、ゲソと呼ばれるようになります。(なんか馬鹿にしたあだ名っぽいですが、ゲソはむしろ褒め言葉だそうです。)
彼には壮大で無謀ともいえる計画があります。それは、日本一の寿司屋になるのみならず、日本の外食チェーンを制し、食を通じて日本を牛耳るということ。
その計画のために、手段を選びません。また、来る時に備えて周到に準備もします。
何年も前から。
そんな彼の兄弟子の金森は、ゲソに番頭になってほしいという言葉どおり、ゲソを名実ともに一番近くから支える腹心として仕えることになります。
1ページ目、最初から書かれていることなので記載しますが、彼は結果的に日本の食を裏から牛耳るところまで登り詰め、巨大外食チェーンの総帥となります。
しかしながら、どういう理由からか自殺してしまいます。
なぜ彼はそこまで成り上がったのにも関わらず自殺したのか、彼の性格を考えても自殺など考えられない。
なぜなのか?その疑問に対する答えはこの物語を読んでみてください!
目的のためなら手段を選ばないという信念をもっているため、ところどころえげつないやり方で計画に向かって邁進していきます。
彼の言葉も紹介しておきます。
「いいすか、カネさん、これだけは言っておきますけど、大事なのは目的なんすよ。目的のためなら手段や方法なんてどうでもいいんす」
そこまでするのかってびっくりする展開もありますが、とっさの機転ながら、先の先まで考えていたり、誰よりも一枚上手をいきます。
必ず自分が有利になるように。決して自分に疑いがかかることがないように。
どういう結果になるのかわからなくても結果ゲソが勝つよう仕組まれている、凄いです。
実際、思いつかないような方法を取る度胸があることや、アイディアを思いつくだけでも凄いと思うし、フィクションながら実際に登り詰めてる人って、多少そういう裏もあるのかもなっていうリアリティもあります。
ゲソは守りに入らず、常に攻めの姿勢です。
前だけを見て、邪魔者は手段を問わずに蹴散らしていく、緻密に計画を遂行していく様は感服します。
ゲソが上手いのは寿司を握るだけではないんです。○○を握ることにかけては右に出るものはいません。そして金森にも○○を握れとたびたび言います。
必要な時に適切なタイミングでそれを握り、ずる賢く抜け目がない、
そんな彼から目が離せなくなります。
軽いタッチの小説ではないです。成功者のサクセスストーリーを読んでいる気にもなってきます。
一介の寿司屋の小僧がどういう道筋を辿って、外食産業の帝王になっていくのか、気になってページを捲ること間違いなしです。
非常に骨太で読みごたえがある小説です。何を握れというのか、それは本作を読んでみてください。