こなびすのピクニック

書評、体験談、考えの発信など  -No matter what the weather, we are together-

【感想】桐野夏生『魂萌え!』-59歳の主婦が直面した現実に震える-

こんにちは。こなびすです。

 

10月に入り秋っぽくなりましたが、大阪はまだ暑いです。

クーラーは辛うじて我慢していますが、まだ扇風機使ってます。。

 

それはさておき、今日は桐野夏生さんの小説「魂萌え!」(上下巻)の感想です。

 

面白かったです。一気読みしました。

タイトルだけ見ると、何?萌え系の話?とか、どんな話なのか全く想像つかないと思います。

 

平凡な59歳の主婦が主人公なのですが、夫が急逝したことで様々な現実を突きつけられ、老いていく中、悩みながらも生きていかざるを得ないリアルな一人の人生が書かれています。

 

 

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 内容(「BOOK」データベースより)

夫が突然、逝ってしまった。残された妻、敏子は59歳。まだ老いてはいないと思う。だが、この先、身体も精神も衰えていく不安を、いったいどうしたらいい。しかも、真面目だった亡夫に愛人だなんて。成人した息子と娘は遺産相続で勝手を言って相談もできない。「平凡な主婦」が直面せざるを得なくなったリアルな現実。もう「妻」でも「母」でもない彼女に、未知なる第二の人生の幕が開く。第5回婦人公論文芸賞受賞。

 

 

感想

59歳の主婦である敏子が主人公です。

 

全く想定していない状況でいきなり夫が倒れ、そのまま亡くなり、その後、疑いもしなかった愛人の存在が判明するって、泣きっ面に蜂過ぎます。。。

 

不憫ですよね。

 

まず夫が亡くなった時、そして愛人の存在が判明した時の、心の動揺具合、将来に対する不安、子供や友人との関係性等、悩みどころが多くあり、その時々の心理描写がリアル過ぎるのです。

 

私と主人公は性別も年代も違いますが、この小説を読んでいるだけで、この59歳の女性の人生をなぞるかのように体験をしているような錯覚に陥りました。

それくらいリアルで丁寧に描写されています。

 

普段は考えもしないですが、世の中に同じような経験をした、もしくは今まさにその途中の女性もいるのだなと考えると、世知辛い世の中であると思わされます。

 

「これから先は喪失との戦いなのだ。友人、知人、体力、知力、金、尊厳。数えだしたらキリがないほど、自分はいろんなものを失うことだろう。老いて得るものがあるとしたら、それは何なのか、知りたいものだ」(本文より)

 

たった一人で老いと将来に向き合う。

 

悩み、悲しむ中で友人の支えがあったり、愛人という敵対する人がいたりする中で、それでも生きていかなくてはならず、少しずつ状況を理解し、進むしかないと決意する敏子の姿が印象深いです。

 

女性の方や、同世代の方はより共感できて楽しめるのではないかと思います。

 

60歳を目前にした人生の一例がこういうものであると考えさせられました。

 

同じような状況になった時に、何をどうするのか正解というのはまずわからないと思いますが、一人の女性の生き方が垣間見れたのは良かったです。

 

心から読んで良かった!と思える作品でした。