【感想】辻村深月『凍りのくじら』 -ドラえもんへの愛と不思議な成長物語-
こんにちは。こなびすです。
辻村深月さんの「凍りのくじら」についてのレビューです。
ドラえもんの道具が小道具として散りばめられており、ドラえもんへの愛にも溢れている、女子高生のひと夏の奇跡の物語です。傑作です。泣けます。
あらすじ
人と深くは関わらないけど、賢く器用に振る舞い、表面上は誰とでも上手くやっていける高校2年生の理帆子。
誰とも合わないと思っている彼女が、波長の合う1人の青年と出会い、会話を重ねていく中で本音を話し、違う内面を見せていきます。と、同時期に不穏な警告が始まります。
主な登場人物
芦沢理帆子:
本作の主人公。名門校の高校2年生。大人びていてわりと冷めた性格をしています。
父親の影響でドラえもんを愛しています。漫画、アニメ、映画問わず、ドラえもんの知識が凄いです。
芦沢光:
理帆子の父親で有名な写真家です。
重病を患い、5年前に急に失踪する。藤子・F・不二雄を、「先生」と呼ぶほどドラえもんが大好きで、家族を愛しています。
芦沢汐子:
理帆子の母。入院中。
家族想いで、いいお母さんだけど、何でも贅沢が出来ず無駄にもったいながる向きがあります。
夫の写真集は汐子が編集していた過去もあり、意外なセンスを持ってたりします。
別所あきら:
理穂子に写真のモデルになってほしいと頼む、高校3年生の新聞部の男の子。
理帆子と気が合い、事あるごとに彼女に話しかけるいい感じの誰にでも好かれそうな人当たりのいい人です。
若尾大紀:
理帆子の元カレ。美少年で、弁護士を目指しています。
勉強がそこそこ出来るという意味では頭は悪くないけど、自分大好きで自分を甘やかし過ぎるダメな男。親はエリートでお金に不自由したことはなく、親のお金で暮らしてる。プライドだけは高いです。
感想
理帆子は、大人びていて、とても賢い子ですが、周りの空気を読むのが周りとも上手く内心では人を見下してる部分も無いでもないため、嫌悪感を示す読者もいるかもしれません。
私はそういうキャラクターが嫌いではなかったですが。
そんなクールな彼女が、ドラえもん大好きっていうギャップがいいのです(笑)
ドラえもんについて語る彼女はすごく可愛いなと思いました。
また、
藤子・F・不二雄先生の言葉:
『ぼくにとって「SF」は、サイエンス・フィクションではなくて、「少し不思議な物語」のSF(すこし・ふしぎ)なのです』
に影響を受けて、会う人会う人に「SF(すこし、なんとか)」で個性を当てはめるクセがあります。
例えば、彼女は自分自身のことを「スコシ・フザイ(不在)」と形容しています。
他にも、とある人には「スコシ・フカンゼン(不完全)とか、「スコシ・フコウ(不幸)」とか言葉遊びとして面白いなと思いました。
作品の雰囲気は、決して明るくなくてシリアスな感じです。
途中からちょっと不穏な空気になっていきますし、悲しいシーンもあり、笑えるって感じの物語ではないんです。
悲しいシーンもあるので、そういう場面ではハンカチが必要です。
彼女が出会う人達、既に繋がっていた人達。それらの人のアシストで大切なことに気づき、彼女は大きく成長し、変わっていく過程が最高です!
また、ドラえもんの道具も沢山でてきて、それらが物語のキーになってたりします。
知らなかった道具の名前がでてきて、普通に興味深かったし、改めて語られてみると、ドラえもんは本当に奥が深いアニメなんだなと改めて思いました。
ちなみに各章のタイトルがドラえもんの道具の名前になっています。「どこでもドア」とか有名なものから、「カワイソメダル」、「いやなことヒューズ」などなど。
私も人並みにドラえもんが好きで、子供の時はアニメも映画もいっぱい観ましたが、またドラえもんを観たくなりました。
優しさに溢れる物語で、表現も総じて綺麗です。心理描写多めなので、好きな人には堪らない名作だと思います。
この作品はとても面白かったので、そのうち必ず再読します。
本棚にずっと置いておきたい一冊です。