【感想】湊かなえ『夜行観覧車』 -殺人事件の加害者、被害者、どちらにも当てはまる子供達はどのように生きるのか-
こんにちは。こなびすです。
もし両親が殺人事件の加害者と被害者(母親が父親を殺害)になったら…。
奈落に落とされるような状況のお話です。
あらすじ(一部引用【「BOOK」データベースより】)
高級住宅地に住むエリート一家で起きたセンセーショナルな事件。
遺されたこどもたちは、どのように生きていくのか。
その家族と向かいに住む家族の視点から、事件の動機と真相が明らかになる。
傍からみると、誰もが羨むような生活をしている家族の中で殺人事件が発生します。
一家4人で生活している家族の、父親が、母親に殺されるという痛ましい事件です。
動機等は終盤まで明かされませんが、その事件が起こるまでは決して仲が悪い夫婦でもありませんでした。
主な登場人物
・遠藤真弓
殺人事件が起こった家の向かいに住む、スーパーでパートをしている主婦。
遠藤家は特別金持ちではないが、高級住宅地に住むことが夢であったため、たまたま空いた狭い土地を購入し、家を建てました。夢のような生活が待っているかと思いきや、娘の癇癪に悩まされています。
・遠藤彩花
元は大人しい女の子でしたが、すぐに癇癪を起こすようになります。
高級住宅地に引っ越したことにより元いた場所の友達とは引き離され、ほぼ無理やり真弓に中学受験させられ、結果、中学受験に失敗しました。
いくつかの要因も重なり、母親と度々衝突し、毎日のように叫びながら家のモノを壊すようになります。
・高橋淳子
夫である弘幸を殺害してしまいます。温厚な品のある女性で、近所の人からもそのように見られています。子供達からも慕われています。
・高橋弘幸
お医者さんです。淳子とは再婚で彼と同様に医者を目指している連れ子が一人います。
淳子同様に穏やかで優しい性格です。
高級住宅地近くにある、私立の女子高に通うお嬢様。社交的な性格。
母も父も慕っています。事件が起きた時には友達の家に泊まりにいっていました。
・高橋慎二
アイドルに似ておりバスケが好きなイケメンで、成績も優秀な子。
母親の期待に応えるように医者になるべく勉学に励んでいます。
自分では優秀ではないと思っており、私立の学校に入ったはいいが、ついていくので精一杯の状況に悩んでいます。
・小島さと子
遠藤家の隣に住む、昔から高級住宅街に住むおばさん。家は広くお金持ち。
手芸教室に通うことが生きがいで、スパンコールがついたポシェットをいつも肩からかけています。
彩花はスパンコールを知らず、ラメと思っており、ラメのポシェットから、彼女のことをラメポと呼んでいます。(ナイスなネーミングだと思います(笑))
野次馬根性多めであるが、本当は人のいいおばさんです。
感想
かなり面白かったです。
表紙は黒地に観覧車でなんか怖い雰囲気やし、めちゃくちゃ暗い話なんやろうなと思い、恐る恐る読み始めました。
最後まで一気読みしてしまいました。
話としては、上記でご紹介した登場人物達の視点から、体験した事実が語られていくのですが、すぐに話に引き込まれましたし、最初から最後まで退屈しませんでした。
表面の結果だけ見ると、母親が父親を殺した、ということになるのですが、周囲の人を含め、いくつもの要因が複雑に絡み合った結果そうなった。
母親は本当に悪いのかなとも思わされました。
殺人を犯してるので勿論犯罪者なんですけどね…。
話の展開もそうですが、人物や状況の描写の緻密さが秀逸過ぎました。
そのため、感情移入もすぐできたし、すぐにその場面を鮮明に想像できます。
とにかく、登場人物の性格や、生きてきた経緯、環境の設定など、時間をかけて構想を練りに練ったんだろうなと思わされました。
憧れの高級住宅街に住む幸せそうな(実際に不幸ではなかった)家族に突如降りかかる悲劇。怖いですよ。
本当にどこの家庭でも起こりうることだなと思いました。
当事者である子供達、近所の人たち、親戚などが巻き込まれるわけですが、子供達が辛すぎますよね…。
愛する家族が殺人の加害者であり、被害者でもある。どうやって生きて行けばいいのか、生活も一変します。
事件が起こった後は、周囲の彼らに対する目も180度変わり、好奇と憎しみの対象にさえなります。
ただ、心の整理がつかない中でも、残された兄妹達は強く、しっかり生きていくんだろうなと思わされるラストは非常に良かったです。
何もなく平穏に過ごせてることが本当に幸せなことなのだなとしみじみと思いました。