【感想】瀬尾まいこ『おしまいのデート』 -人生いろいろ、デートもいろいろ-
こんにちは。こなびすです。
瀬尾まいこさんの「おしまいのデート」のご紹介です。
デートをテーマにした短編集です。でも、一般的にイメージするような彼氏と彼氏みたいな恋人同士のデートではありません。
おじいさんと孫、教師と生徒、同級生の男子同士、離婚した女性と大学生、保育士と園児です。
どれも読みやすく、瀬尾まいこさんらしいゆったりとして温かい内容ですが、一部切なくなる話もあります。
どれも良かったのですが、特に印象深かった「ランクアップ丼」について書こうと思います。
あらすじ
わりと高齢の高校教師「上じい」こと上田と、めっちゃ不良になりきれない不良の三好。
三好が学校で同級生とけんかして暴力沙汰を起こしたときに、上じいが彼を食事に誘います。
連れて行った先のうどん屋で、玉子丼が美味いからと勝手に注文し、一緒に食べ、その後も卒業までちょくちょく一緒に食べます。
卒業後、三好が就職した後は、毎月給料日に三好が上じいに玉子丼をご馳走します。
主な登場人物
三好
生まれながらに父親がおらず母親に育てられたちょっと不良の高校生。
根は優しい男の子。
上じい
三好の隣のクラスの担任。
気のぬけたしゃべり方でよぼよぼな感じが上じいという名前にあっているというイメージらしいです。思いやりがある先生です。
感想
すごく良かったです。そして、少し泣けます。
読み終わった後に思ったことは、こんなに親身になって寄り添ってくれる人がいたら幸せだろうなってことです。
上じいの距離感の保ち方が絶妙です。
最初に三好が玉子丼を一緒に食べた時も、彼は人を殴ったことをとやかく言われるものだと思っていたにもかかわらず、上じいはそんなことは一切口にせずただご飯を一緒に食べた感じなんです。
ただ日常の他愛ないことを話しつつ、玉子丼を一緒に食べるだけで、彼の気持ちが軽くなるよう、片親にほっておかれた生活で溜まったものを取り払ってくれるようなやさしい先生です。
就職に対しても、結果的には三好が幸せに過ごせるようなアドバイスをし、三好自身もそれに満足するし、また、恩を返すわけでもないけど、三好も三好で修飾後は玉子丼をご馳走するっていう流れもよかったです。
つい今思いましたが、上じいは教師ですが、彼が教壇に立っている描写などは一切ありませんでした。
学校の場以外でのやりとりだけで彼らの信頼関係が構築されていくのも不思議な感じがしましたが、教師と生徒というのではなく、年は離れているけど、親子とも違い、大事な親友同士のような関係が心地良かったです。
20代の若者と60代のじいさんが一緒にご飯を食べるって、なかなか無いシチュエーションですよね。
そして、あることでそのデートは終わることになるんですが、その理由にはグッとくること間違いなしです。
個人的にはこのランクアップ丼がかなりお気に入りでしたが、他の作品もいずれも温かく、面白い話ばかりでした。
瀬尾まいこさんの文章は緻密って感じではないですが、詳細に詰め込みすぎない文体の中に、読者がいろいろと考えを巡らして、読後も心地いい余韻に浸ることができるような余地を残していることが多いように感じます。
今後も気になる本は読んでいこうと思います!