【感想】湊かなえ『絶唱』 -楽園のようなトンガと阪神大震災の経験-
こんにちは。こなびすです。
阪神大震災の凄惨さを改めて実感しました。
元々湊かなえの作品が好きだったのと、「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」という帯の文言が目につき、史上最高の号泣ミステリー、との謳い文句に惹かれて買ってみました。
読み終わってみて、号泣こそしませんでしたが、最後の表題作はガツンときました。
全4編からなる小説で、4編とも語り手は異なりますが、トンガ王国が舞台で何かしら繋がりがある人の話です。
震災で双子の妹を亡くした雪絵、若くしてシングルマザーとなった杏子とその子供の花恋、取り返しのつかない言葉を放ってしまった婚約中の理恵子、彼女達は秘密や胸の内に抱えるものがあってトンガ王国を訪れます。
それから、トンガでの出会いがきっかけとなって作家になった千春の話。
いずれの人達も阪神大震災が人生を変えました。そういう過去を持ち、トンガを訪れ、トンガの人の優しさ、死に対する考え方、などに触れていきます。
トンガはフレンドリーアイランドと呼ばれてるくらい人は皆大らかで、心も体も大きいみたいです。
トンガの人は皆クリスチャンで日曜日は教会に行く死者と会話するために行きます。
トンガの人は、亡くなった方と別れるのは寂しいけれど、死は悲しいことではないとの考えを持ってます。
お葬式もお祭りのように明るく、死者が楽しく天に昇れるように、一晩中音楽を演奏して見送るなど、日本と違う文化をこの小説を読むことによって知ることが出来たし、そういうの、なんかいいなって思いました。
そして、海も綺麗でまさに楽園のような場所、行ってみたいと思いました。
最終話の表題作の「絶唱」は震災の様子が生々しく描写されています。
「わたしは(僕は)あの時〜、と自分のことを語りたがるのは、境界線のもっと外側にいた人たちばかりなのです」という一文があります。
私は小学校の時に大阪で阪神大震災を経験したのですが、やれ水屋の食器が割れただの、棚が傾いただのと、周囲に言っていたのが恥ずかしくなりました。
実際に生きるか死ぬかの経験をした人、大切な人を失った人は、そんなしょうもないことを嬉々として言えないなと心から思い知らされたし、「震災など起こらなければ」と本作に書かれていたこの言葉が全てだと感じました。
喪失と再生の物語です。
悲しい話だけでなく、トンガの人たちの人柄やその国の雰囲気含め、救いもあるので、気になった方は読んでみてください、