こなびすのピクニック

書評、体験談、考えの発信など  -No matter what the weather, we are together-

【感想】伊坂幸太郎『グラスホッパー』-個性豊かな殺し屋達が登場する殺し屋小説-

こんにちは。こなびすです。

 

今日は伊坂幸太郎さんの殺し屋シリーズ一作目の「グラスホッパー」の感想を書いてみます。

 

自殺屋の鯨、ナイフ使いの蝉、押し屋の槿(あさがお)が主な殺し屋として登場します。

 

ナイフ使いは殺し屋としてもメジャーなイメージですが、自殺屋とか押し屋とかユニークな専門の殺し屋ですよね。

 

伊坂さんの小説らしく、相変わらず飽きさせない展開でした!

 

 

内容(「BOOK」データベースより)

「復讐を横取りされた。嘘?」元教師の鈴木は、妻を殺した男が車に轢かれる瞬間を目撃する。どうやら「押し屋」と呼ばれる殺し屋の仕業らしい。鈴木は正体を探るため、彼の後を追う。一方、自殺専門の殺し屋・鯨、ナイフ使いの若者・蝉も「押し屋」を追い始める。それぞれの思惑のもとに―「鈴木」「鯨」「蝉」、三人の思いが交錯するとき、物語は唸りをあげて動き出す。疾走感溢れる筆致で綴られた、分類不能の「殺し屋」小説。

 

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感想

相変わらず、テンポのいい展開で読みやすかったです。

 

亡き妻の仇打ちを企む鈴木(一般人)と殺し屋達がどうのように絡み、最終的に誰が生き残るのか、が気になると思うのですが、シリーズの後の作品を先に読んでいたため、そっちに登場している人物は生き残るとわかっていたので、面白さが半減してしまいました。。。

 

やはりシリーズ系は順番に読むに越したことはないなと改めて思いました。

 

とはいえ、一般人の鈴木が押し屋を尾行する時にどう行動するのか、とか、殺し屋達に接触した時にどうなるのか、とか殺し屋同士の戦闘は発生するのか、とか気になる展開が目白押しです。

 

で、鈴木の亡き妻は、鈴木の回想にしか登場しないのですが、彼がその妻を想いながら行動するのが個人的にはポイント高かったです。

 

鈴木と妻が出会った時の描写もあって、ほっこりできたり、また、妻の口ぐせ「やるしかないじゃない」が印象深かったり、既に亡くなっている存在ですが、なんか明るいキャラクターで存在感がありました。

 

一方の鈴木はというと、平凡だなという印象です。

 

主人公格ですがあまり印象に残っていません。いい人、というくらいですが、周りの登場人物を引き立たせるためなんでしょうね。

 

あと、蝉の仕事の斡旋役の岩西もユニークでした。彼はジャック・クリスピンという人物を敬愛していてジャック・クリスピンの言葉をよく引用します。正に蝉のようにうるさくよく喋る蝉との掛け合いが見ものです。

 

ちなみに、自殺屋の鯨は、役柄的に暗い感じがして好きになれなかったです。。

(好みの問題だと思います。)

 

依頼を受けて、相手を自殺させるという殺し屋なんですが、自殺に見せかけるわけではなくて自ら自殺に向かわせることができるのです。。

(どういう技術でそうさせるのか気になる方は読んでみて下さい笑)

 

彼の屋号「鯨」は高身長で体格がよく、でかいのが由来です。

彼が戦う場面もあるんですが、常人離れした身体能力と体格もあるし、普通にそっちを専門にした方がいいのでは、とも思いました。。

 

車道や線路に押し出して相手を殺す、押し屋については、周りに気づかれずに実行するのは、率直にタイミングが難しすぎるやろうと思いました。

技術があるんでしょうねぇ。

 

なんか主な登場人物それぞれにコメントしてしまいました。

 

登場人物みんな個性的ですが、そのキャラ設定とストーリーがいい感じにマッチしています。

 

殺し屋が複数いるだけに人もちょいちょい死ぬので、爽やかで明るい小説ではないですが、安心して読めるアクション映画っぽい雰囲気のエンタメ小説です!

 

 

【感想】伊坂幸太郎『マリアビートル』-新幹線を舞台に殺し屋が入り乱れる!-

こんにちは。こなびすです。

 

今日は伊坂幸太郎さんの殺し屋シリーズの2作目「マリアビートル」の感想です。

 

シリーズ3作目の「AX」から読み始め、面白かったので、次にこのマリアビートルを買ってみました。

これはこれで、AXとは違った面白さがありました!

魅力的で個性的な殺し屋達が登場します。

 

疾走感がある展開で、一日でイッキ読みしてしまいました笑

 

 

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内容(「BOOK」データベースより)

幼い息子の仇討ちを企てる、酒びたりの元殺し屋「木村」。優等生面の裏に悪魔のような心を隠し持つ中学生「王子」。闇社会の大物から密命を受けた、腕利き二人組「蜜柑」と「檸檬」。とにかく運が悪く、気弱な殺し屋「天道虫」。疾走する東北新幹線の車内で、狙う者と狙われる者が交錯する――。小説は、ついにここまでやってきた。映画やマンガ、あらゆるジャンルのエンターテイメントを追い抜く、娯楽小説の到達点!

 

感想

ほぼ新幹線の中だけで話が進みます。

 

息子の仇討ちとして、元殺し屋の「木村」は中学生の「王子」を狙い、気弱で運が悪い殺し屋の「天道虫」は、別の殺し屋のペア「蜜柑」と「檸檬」が闇社会の大物の依頼を受け入手した荷物を狙います。

 

更に別の殺し屋達なんかも登場し、この新幹線の中は何人の殺し屋がいるんだとおっかない状況になります。

自分が新幹線乗った時に、周りにそんなに殺し屋がいたらぞっとするなと思いながら読んでました。

 

新幹線の中なので、一般人に騒がれることがないように細心の気を配りながらそれぞれが行動します。

新幹線の中だけの展開で全く飽きさせず、これだけ読ませてくれるのは凄いと思いました。

見事なストーリー展開です。

 

で、檸檬と蜜柑。彼らが個人的には一番好きでした。

檸檬は気性が荒いタイプで、機関車トーマスが好きで、トーマスのキャラクターの説明だったり、作中の台詞などを引用します。

彼のおかげで、トップハム・ハット卿とか、耳に残るキャラクター名も覚えてしまいました笑

 

一方で、蜜柑は冷静沈着、文学を愛しており小説などをよく読んでいます。

 

2人はお互い凄腕であるものの、性格は正反対で相性が悪いように見えて、実は、根っこの部分で認め合ってて、双子のように相性がいいのが良かったです。

 

で、王子。

彼は中学生ながら狡猾で、人が傷つこうが死んでも何とも思わないような悪意の塊みたいな人間です。

表面的には美男子でいかにも真面目な優等生タイプを演じています。

そして、自分が楽しむために、周りをひっかきまわすのですが、頭が良すぎるだけにタチが非常に悪いんです。

 

読み進めていく中で、殺し屋達を応援し、早く彼に制裁を加えてやってくれと願わずにはいられませんでした。

 

木村が息子を想う気持ちや彼の人間関係、天道虫のありえないほどの運の悪さなど、他にもいろいろな要素が絡み合って、どんどん話が交錯していきます。

 

誰がどのようにして、生き残り、はたまた、やられるのか。

先の展開が気になります。

 

グラスホッパーは映画化されていたみたいですが、これは映画化されてないんですかね。こちらの方が映画で観たい気がしました。

 

ちなみに、マリアビートルの後にシリーズ一作目のグラスホッパーも読んだので、またの機会に感想を書こうと思います。

 

読んで頂き有難うございました!

 

【感想】伊坂幸太郎『AX』-最強の殺し屋が恐れるもの、それは・・・。-

こんにちは。こなびすです。

 

今日は伊坂幸太郎の小説の「AX」(アックス)についての感想です。

殺し屋が主人公の小説なのですが、これはシリーズ3作目です。

 

実は、1、2作目はまだ読んでいないです。でも、この作品を読み終えて、非常に面白かったので、1、2作目も読もうと思い、すぐポチりました。

 

最強の殺し屋が最も恐れるもの、それは、彼の妻です。

 

極道の妻的な女性を想像している方もいるかもしれませんが、全く違っていて、彼の妻は一般的な女性です。息子も一人います。

 

裏の仕事である殺し屋のことは家族には隠していて、表向きは文具屋の営業という仕事をしているのです。

 

家族愛に溢れた、いい小説でした。

 

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内容(「BOOK」データベースより)

「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。一人息子の克巳もあきれるほどだ。兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。引退に必要な金を稼ぐために仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。物語の新たな可能性を切り拓いた、エンタテインメント小説の最高峰!

 

感想

伊坂幸太郎の殺し屋シリーズの1、2作目も存在は知っていたものの、殺し屋っていう設定のためになんとなく敬遠していました。

 

でも、ツイッターでこの作品の読了ツイートなんかを読んでいて興味を惹かれて買ってみたのです。

結果、正解でした。

 

最強の殺し屋。「兜」が主人公です。

素手での格闘がめっちゃ強いです。

 

殺し屋っていうと銃で戦うイメージがあったのですが、銃での攻防はないこともなかったですが、描写としては少なかったです。

あと、戦闘シーンも多いのかなとも思いつつ読んでいたのですが、案外そうでもなかった気がします。

 

が、家族との日常の描写あってこその戦闘シーンだなと思いました。ゆるやかな日常から一転して、一気に緊張感が高まるシーンがあったり、ストーリーの中で、戦闘がいいスパイスになっています。

 

殺し屋の一面と、そうではない、温かい普通の夫であり、お父さんという一面のギャップがいいです。

裏の仕事をする時は人の命を何とも思わない冷酷と言える性格が前面に出ていますが、とはいえ、本質は温かい家族を愛する人なのかなという気がします。

 

小さい時から悪事を働き、人の命も数知れず奪ってきた人生ですが、足を洗うために、裏の仕事を続けなければなりません。

 

彼が働くことによって既得権益を得ている人がおり、彼に辞められるというわけで、簡単にはその業界から去ることはできないのですね。

 

そんな中で、人の命を散々断ってきたけど、彼は妻と息子と幸せに暮らしたい思いも強く持っています。

 

人の命を断ってきた自分は普通に暮らすのは虫が良すぎるのかと。葛藤します。

 

死は覚悟してるけど、家族と生きたいという矛盾しているような感情がリアルに描かれていて、グッときます。

 

妻には頭が上がらず、気ばっかり遣っている姿は滑稽でおかしいですし、息子と接する姿にも愛に溢れています。

人を沢山殺してきた悪人である彼は、いつ命を断たれるかもしれないということを常に自覚しているためかもしれません。

 

読む中で彼に惹かれていき、彼の人柄に好感が持てる人は多いと思います。(殺し屋ですが。。)

 

また、この小説で「蟷螂の斧」という言葉がでてきます。

恐らくその蟷螂の斧の斧=AXがこのタイトルを表しているのだと思います。

 

私はそれがテーマとなっていると仮定して、その「蟷螂」は誰のことなのか、というのが気になって読み進めていきました。

 

最強である兜なのか、それとも兜と対峙する刺客なのか、はたまた何か別の勢力なのかなど。

 

あと、兜は格闘に精通していてめっちゃ強いので、見た目の描写はあまりないものの、身体は凄い筋肉がついているのは間違いないやろうなと思いながら読んでました。

 

家族には殺し屋という顔は隠しているけど、家族なら裸も見ているでしょうし、家族には何て言っているのかなとは気になりました。

 

 

ストーリー展開もテンポよく、一気読みできるほどハマり、最後まで楽しく読めました。

1、2作目も読んだ後、またここに感想を書くかもしれません。

 

本作、気になった方は読んでいただいて損はないかと思います。

 

毎度のことながらまとまりのない文章ですみません。。

 

では、今日はこの辺で。

 

 

【感想】西加奈子『さくら』-家族とは、命とは…-

こんにちは。こなびすです。

 

 今日は西加奈子さんの小説「さくら」の感想を書きます。

 

「さくら」の主人公は、仲の良い家族に囲まれ、幸せだった子供時代を経て年を重ねます。でも、兄が亡くなることによって家族の状況が一変します。

家族とは、命とは、生きることとは、それらについて考えさせられる小説です。

 

読み終わった後に浮かんだ言葉は「禍福は糾える縄の如し」でした。

 

 

 

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内容(「BOOK」データベースより)

ヒーローだった兄ちゃんは、二十歳四か月で死んだ。超美形の妹・美貴は、内に篭もった。母は肥満化し、酒に溺れた。僕も実家を離れ、東京の大学に入った。あとは、見つけてきたときに尻尾にピンク色の花びらをつけていたことから「サクラ」と名付けられた十二歳の老犬が一匹だけ。そんな一家の灯火が消えてしまいそうな、ある年の暮れのこと。僕は、実家に帰った。「年末、家に帰ります。おとうさん」。僕の手には、スーパーのチラシの裏に薄い鉛筆文字で書かれた家出した父からの手紙が握られていた―。二十六万部突破のロングセラー、待望の文庫化。

 

登場人物

:主人公。特に際立つ個性はないけど優しい男性。

 

はじめ:薫の兄。美形で勉強も運動も出来る。全てにおいて優秀で誰からも一目置かれるヒーロー。喧嘩も強い。モテ具合が伝説となっている。

 

美貴:はじめと薫の妹。超がつくほどの美形。がさつ。兄のことが大好き。兄と同様に伝説を作ったりもします。モテに加えて乱暴者であることによって。。

 

サクラ:薫の家族に飼われている老犬。家族皆から溺愛されている。

 

感想

兄と妹が際立っているため、常に彼らと比べられて平凡に思える主人公。

でも、兄や妹を妬んだり羨んだりすることもなく、自分のポジションを確立していて偉いと思いました。ただ優しいだけでもなく、人間臭い思考もしているし、好感が持てると思います。

 

そしてまず、読み始めた人は、なぜ兄が死ぬことになり、なぜ家族が崩壊しそうな状況になっているのかということが気になるのではないかと思います。

はじめの章では、主人公は大学生ですが、次の章から主人公が子供の頃の話となります。

 

大半は温かい家族の話です。

時系列的に話が進み、一家の人生を一通り見ているような錯覚を起こします。

 

主人公が恋愛をして文通をしたり、兄が彼女を連れて来たり、美貴が学校の不良から呼び出しを食らったり、母親と父親も絡めて、そんなような細かなエピソードが散りばめられています。

 

恐らく、この小説を紹介するような人は、感動するようなエピソードを書いていることが多いと思うので、あえて別の意味で印象的だったことを書きます。

 

それは、「勇気あり」と名付けられた子供達の間で流行っていた遊びです。

兄が友人達としていた遊びなのですが、それに幼い美貴も参加すると言い出すのです。

 

どんな遊びかと言うと、犬のうんこを囲み、それに爆竹を刺して、誰が最も長くその場に留まっていられるかっていうチキンレースです。

 

自分が子供の頃に誰かがこんなことを思いついてたら、まずやってたやろうなって思います(笑)

 

そんなあほらしいエピソードがあるのもこの小説のいいところだと断言できます。

いい話もあれば、悲しい話もあり、そういう様々な出来事が積み重なって過去が形作られ、彼らの人生が作られているのが実感できます。

 

主人公や兄の恋愛の話なんかも、なかなか甘酸っぱくて良かったです。

 

そんな中で、兄が亡くなることによって家族は衝撃を受けます。

 

読者も同様でしょう。

ヒーローだった兄が。不憫で辛く、心理的なダメージがでかいです。

 

現実でも自分にそういうことが起こらないとも限らない、人生の不条理さを突きつけられました。

タイミング一つ、きっかけ一つで、亡くなった本人然り、周りにいる人達の人生も大きく変わってしまいます。

 

家族や愛すべき人に囲まれて過ごせる素晴らしさと、人生の辛い部分、いずれも描写されていて考えさせられました。そして、どんな状況になっても、希望はあると感じさせてくれます。

 

平凡ながら生活できている今を大切にしたいなと心から思えました。

 

 

最後に、彼らと共に生活していたこの物語になくてはならない存在の「サクラ」という犬についてです。

話の中で色々な出来事が起こりますが常に家族に愛され寄り添っています。犬を飼いたいなと思いました。

 

サクラは読者にも寄り添ってくれることをお伝えしておきます。

 

いい小説です。

 

 

 

【感想】恩田陸『黒と茶の幻想』-知的な会話が最高。予定調和的な会話にうんざりしている方へ。-

こんにちは。こなびすです。

 

今日は恩田陸さんの小説「黒と茶の幻想」の感想を書きます。

 

この小説、「大人版の夜のピクニック」なんて呼ばれることもあるみたいです。

なるほどと思いました。

夜のピクニックは高校生の男女が主人公ですが、この作品はアラフォーの男女が主人公です。場面のほとんどが歩いているだけというのも共通しています。

 

旅のテーマの1つとして各人が謎を持ち寄る、みたいなのがあって、その謎を探求しつつ回想したり、ほぼ会話だけで話が進みます。

大きな事件が起きることも無いですが、それだけで惹き込まれる魅力的な小説です。

同著者の「夜のピクニック」が好きな人はこの小説も好きだと思います。

 

 

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内容(「BOOK」データベースより)

太古の森をいだく島へ―学生時代の同窓生だった男女四人は、俗世と隔絶された目的地を目指す。過去を取り戻す旅は、ある夜を境に消息を絶った共通の知人、梶原憂理を浮かび上がらせる。あまりにも美しかった女の影は、十数年を経た今でも各人の胸に深く刻み込まれていた。「美しい謎」に満ちた切ない物語。

 

主な登場人物

本小説は4章で構成されているのですが、各章それぞれ下記の4人の視点で話が進んでいきます。いずれも年齢は30代後半です。

  • 利枝子:大学時代は薪生と付き合っており大恋愛をした。今は結婚して旦那さんも子供もいる主婦。容姿も悪くなく男性からも人気がある、一緒にいてホッとするタイプの女性であると自覚している。学生時代は話の中だけに出てくる彼らの共通の知人である梶原憂理と親友だった。
  • 彰彦:実家が資産家で洗練されている。けど、飾らなくて快活な性格。長身で見目麗しい男性。少年時代も目が覚める程の美少年だった。山登りが好き。今回の旅行を企画し、下調べや宿の手配等周到に準備したリーダータイプ。蒔生のことが人間的に大好き。少し前にお見合いで結婚した。
  • 蒔生:いつでも寛いでいる雰囲気で口数は多くはないけど存在感がある。傍から見ると何を考えているかわからないようなところがある。彰彦ほど美形ではないが女性から好かれるタイプの容姿。外資系企業に勤務している。
  • 節子:誰とでも友達になれるお喋りな女性。彼女がいるだけで場が明るくなる。背が低く顔が小さい、バタ臭い感じの美人。旦那も子供もいるけど、バリバリのキャリアウーマンで課長をしている。

 

感想

4人とも夫々に個性があり、もの凄く知的であるところは共通しています。

そして皆人間的に深い。。

 

素人が考えつくような浅い人物設定ではないです。

各人物の過去がかなり深く作り込まれている印象です。

 

主人公達の考えや洞察が深過ぎることについて、4人ともどんだけ頭がいいんだという感じはしましたが、でも、リアリティはあるのです。

そして、リアリティがあると言っておきながら矛盾するようですが、こんな4人が現実に存在するのだろうかという気もします。

 

風景や心理の描写から会話から何から何まで興味深く描かれているし、人物的に4人も非常に魅力的なので非常に面白い小説です。

 

ストーリーとしてはシンプルです。

学生時代の友人同士が久しぶりに会って、とあることからY島(屋久島だと思われます)に旅行に行くだけです。

そこで彰彦が、各人「謎」を持ち寄り、旅の間にその謎について議論しようと提案します。彼らの旅のテーマは「非日常」と「謎」です。

 

神秘的な森の中を散策しながら、持ち寄った謎や、その時々に考えていることなど様々な会話が繰り広げられます。

で、彼らの話の中で、雑学的な話も上手い具合に披露されるんです。

 

あまり上手くない作者だと、多くの人が知らないであろう知識を披露してやろうっていう思いが透けて見えるものですが、それが押しつけがましくなくさりげないのが恩田陸の凄いところだなと思ったりもしました。

新たに知った言葉なんかも増えて、自分も少し頭良くなれた気がします(笑)

 

さもない軽い謎から美しい謎、そして共通の知人の重たい謎、さらには最大の謎である自分に考えを巡らせることになったり。

 

森の中を散策する中で各々過去を振り返り、知りたくなかった真相を突きつけられたり真相に辿り着かなかったりするのですが、その過程で読者も過去を見つめ直すことになると思います。

 

私も読んでいるうちに、学生時代などの過去を思い出し、彼らと一緒に自分に向き合った気がします。

 

あと書いておきたいことの一つは、この小説は文章が綺麗過ぎなことです。

作家としても格が違ってて、下手な作家だと太刀打ちできないレベルだと感じました。それもこの小説を魅力的なものにしています。

作家の中の作家っていう感じがします。

 

旅が終盤になり、終わりが見えてくると、主人公達と同様に淋しい気持ちになってきたり、彼らと一緒に旅をしたような感覚を覚えました。

いい小説って早くラストまで読み終えたい気持ちと、読み終えるのを遅らせたい気持ちが同居したりしませんか?

これもそんな小説の一つでした。

 

ハマる人は凄くハマる小説なんじゃないかと思います。

読んで良かった小説です。

 

 

【感想】綿矢りさ『私をくいとめて』-脳内の自分との会話は楽しそう!-

こんにちは。こなびすです。

 

今日は綿矢りささんの小説「私をくいとめて」のご紹介です。

 

アラサーのOLが主人公です。特にキャラが立っているわけでもなく、特別なスキルや状況があるわけではない、そこここにいそうな女性が描かれています。

 

ただ、普通の人と違うと思われるのは、彼女は自分の中の分身である「A」とよく会話をしています。あくまで自分の分身であるためAも完璧ではないけど、頼る気持ちもわかるっていう場面もちらほら出てきます。

女性の読書だったら更に共感できるのではないかなと思います。

 

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内容(「BOOK」データベースより)

黒田みつ子、もうすぐ33歳。悩みは頭の中の分身が解決してくれるし、一人で生き続けてゆくことになんの抵抗もない、と思っていた。でも、私やっぱりあの人のことが好きなのかな?同世代の繊細な気持ちの揺らぎを、たしかな筆致で描いた著者の真骨頂。

 

感想

芥川賞を受賞した同著者の「蹴りたい背中」は読んだことがあり、本屋でこの作品のサイン本を見つけたため買ってみました。

 

表紙が可愛らしく、圧倒的にターゲットは女性という感じがしますが、男性である私も楽しく読めました。

 

 週末は趣味に時間を割き、仕事して疲れたらマッサージに行き、はたまた買い物に行ったり、歯医者に行ったり。

同僚の恋愛話を聞いてみたり、そんな日常の中で気になる人が出来たり。

日常ですよね。

 

現実にも大多数の女性がよく過ごしているようなシチュエーションの女性が描かれています。

 

 

ただ、一般的な人と異なるのは、主に困った時や一人で退屈している時など、冒頭に書いたように主人公のみつ子は脳内の分身とよく会話します。

みつ子はわりとのんびりした性格でほんわかしているけど、色々と悩みや不安も抱えています。

 

一方で、分身である「A」は機転もきくし、とても頼りになる存在です。恋愛のアドバイスなんかもするのです。

なぜかみつ子に対して敬語で話しするのですが、そういうところにも好感が持てます(笑)

「A」すごくいいキャラしています。

 

深層心理もわかっているので自分の考えがまとまらない時など、的確にアドバイスをしてくれたり、誰よりも自分のことをわかっているため最も効果的に褒めてくれたり励ましてもらえる時なんか、「A」みたいなのが自分の頭の中にいたらいいだろうなぁって思います。

 

みつ子にとって最高の味方です。

 

とはいえ、そこまで完全に別の人格みたいなのが出来ていると、完全に妄想のようなものなので、やばい気もしないでもないです。。

 

登場人物は少なく、話もシンプルで複雑ではないので安心して読めます。

手に汗握る展開があるわけでも、感動しすぎて号泣するような小説でもないです。

 

でも、小さく心を揺さぶられるようなそんなシーンがあります。

 

実写映画化もされるようで、映画も気になります。

みつ子とA、同僚や、登場する男性とのやり取りがどんな感じになるのか、ストーリーの波はゆるやかですが、映画も安心して観れそうなものになるんじゃないかと思います。

 

カフェ等でまったり読むのが合うような小説です。

 

 

【感想】東野圭吾『秘密』-切な過ぎる名作小説-

こんにちは。こなびすです。

 

今日は東野圭吾さんの「秘密」の感想を書きます。

 

この小説、20年以上前の東野作品ですが、めっちゃ好きなんです。

 

読書が趣味と言えるくらいに小説を読み始めて15年以上経ち、これまで余裕で1,000冊以上読んでいますが、今でも私のベスト10に入っている作品です。

 

読書って読むタイミングによって感じることが違ってたりしますが、最近再読して、やっぱり最高だと認識しました。

 

 

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内容(「BOOK」データベースより)

妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美を乗せたバスが崖から転落。妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった。その日から杉田家の切なく奇妙な“秘密”の生活が始まった

 

 

感想

面白い作品は昔のものだろうと何だろうと面白いですよね。

ここまでの小説に出会えることはなかなか無いと断言できますが、こういう出会いがあるから読書はやめられません。

 

一生のうちで出会えてよかったと思える小説の一つです。

 

娘の身体に妻が宿る。超常現象的なSFっぽい設定ですね。元々設定が面白い小説って好きなんですが、この小説はとにかく心理描写が見事でリアリティが凄いです。

 

事故が起こった結果として、妻が娘の身体に宿り、実質的には彼女は若返って人生をやり直すことになったということ。

そうすると、一緒に生活する中で二人の関係性はどうなるか。

 

娘が亡くなったことを悲しむ状況でもありますが、見た目は娘である最愛の妻がいます。

 

妻が成長していくにつれ、周りから見れば娘に他ならない妻との将来はどうなるのかという不安、再度得ることができた新しい人生を悔いが無いものにしようとしている妻に対する妬み、置いて行かれたような孤独感、そして、焦燥感。

 

様々な感情が主人公の平介の中で渦巻きます。

若干度が過ぎると思えなくもない描写もありますが、自分が同様の立場だったら、と考えると同じような感情が生じるだろうなって思います。

 

転落事故で妻だけでも生き残ったことは間違いなく幸運ではあったけど、2人で生活していく中での平介の気持ちを考えると胸が苦しくなります。

心が揺さぶられるシーンがいくつもあります。

 

周りにも相談できない中で、秘密を持つ2人。幸せに生活しようとするものの、愛しているが故に衝突も繰り返します。

 

娘の身体に宿った直子にしても、「自分」として振る舞えない苦しみがあります。学校等では勿論ですが、例えば、自身の身内に対してもです。

両親に対しては、孫として接しないといけないんです。。。

その両親は無論、直子は亡くなったと認識しています。

周囲からは自分はこの世にいないものとして扱われ、その状況を受け入れざるを得ない、その悲しみは想像を絶すると思います。

 

2人の苦悩が切な過ぎです。。

 

その一方で、この小説が見事だと思うのは、バス転落事故に関係する人物達とも関わり合いがあり、それの原因追及部分も非常に読み応えがあります。

事故を起こした亡くなった運転手の遺族等、真相を追う中で、新たな事実、人間関係が都度浮かび上がってきます。

 

そして、物語の最後の「秘密」です。

泣けます。。

 

愛している相手が幸せになれる道。

その選択をするまでにどれほどに悩み覚悟を要したか。考えれば考えるほど心が震えます。

 

繰り返しになりますが名作だと思います。まだ読んでいない人が羨ましいです。

記憶を消して再度読んでみたい程です。

 

未読の方は是非読んでみてください!