こなびすのピクニック

書評、体験談、考えの発信など  -No matter what the weather, we are together-

【感想】春口裕子『行方』-突如姿を消した我が子、家族はどうなる-

こんにちは。こなびすです。

 

今日は春口裕子さんの小説「行方」のレビューです。

 

3歳の愛娘が急に行方不明になる。家族の心境を想うと、胸が引き裂かれそうな話です。

その子の家族の人生、幸せだった暮らしぶりが一変します。

 

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 あらすじ(「BOOK」データベースより)

公園から忽然と姿を消した三歳の琴美。両親は必死に捜すが、一向に見つからない。―22年後。自堕落な生活を送る幸子のもとに、一通の手紙が届く。差出人は、消息不明の妹を捜し続けている男だった。同じ頃、浜名湖畔で父親の誠司とペンションを営んでいる楓。ある日を境に、楓は誠司に対して不信感を抱く。父は何か秘密を抱えて生きているのではないか。交わるはずのなかった人生が交錯したとき、浮かびあがる真実。切ない想いが胸を満たすサスペンス長編。

 

 

感想

実際にも、小さな子供が行方不明になるような事件や事故のニュースを見た時に、ご家族が不憫だなと思うものの、家族がどのような心境になり、どのような行動を取ることになるかにまでは、深く考えたことがありませんでした。

 

この小説には、家族の心境をとても丁寧に書かれており、何とも切実な気持ちになりました。

 

 

必ず見つけてみせる、それを心にどれだけ心配して必死になって探すか。

以下、本文の引用です。

 

「心細さに泣いているかもしれない。しくしくと声を立てずに泣く子だ。大きな声で泣いてほしい。お願いだから、ママはここにいるから、届くくらいの大きな声で。聞こえないのはなぜなのか。声が出ないのか。不安でか。空腹でか、それほどまでに衰弱しているのか。あるいはー。

ダメだ。考えてはいけない。」(本文より)

 

 

母親の我が子を心配する想いだけで悲しくなります。。

 

食事も喉を通らず、深くも眠れず、それでも時間が経つ。時間が経つにつれて悲観的なことを考えてしまうけど、希望を捨てることもできない。

辛すぎます。

 

更に、その子が行方知れずになったのは、母親の過失も無かったとは言えないのです。その過失は小さなこと(と私は思いました。)なのですが、それでも母親は自分を責めます。

 

また、重要な情報を持っていそうな人物もいるのですが、その人物はとらえどころがなく、母親と同じ気持ちで、焦らされたり、いらいらさせられたりします。

 

読み終えてみると、話の内容は小説でありがちなもののような気もしますが、それでも面白かったです。

 

というのは、細かな伏線も散りばめられていて、その都度、こういうことかと想像させられるのですが、それが微妙に覆されるような別の事柄がポンと出てきて、「ん?」となります。

そんな風に上手いこと誘導されて、結果、終盤まで真相がわかりませんでした。

 

終わり方も見事で、上手くまとめられていた印象です。

 

初めて読む作家さんだったのですが、大変満足で、買って損はありませんでした。

他の作品も読んでみようと思わされた良作でした。

 

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